
一般的に、錫の酒器で日本酒を飲むとおいしく感じるといわれていますが、それはなぜなのでしょうか。錫は金・銀に続いて高い価値をもつ金属で、毒性がまったくありません。さらに、錫特有の優れた性質が日本酒をまろやかな味わいに変化させます。今回は、錫が酒器に適している理由と、その特性についてくわしく解説しましょう。
錫には、主に次のような特徴が挙げられます。第一に「融点が低いこと」。およそ摂氏230度で溶けるため、制作に専用設備や溶解炉を必要としません。街中の工房でも加工・製作が可能です。しかし、その利点ゆえに直接火にかける鍋やヤカンといった器類を作ることはできません。電子レンジでの使用や、極端に熱い料理の盛りつけも避けたほうがよいでしょう。
第二に、「金属としてはとても柔らかい」ことです。指や布・紙で触れても傷がつくレベルで、落としたりぶつけたりすればすぐに凹んでしまいます。が、その欠点が幸いして、壊れても溶解して作り直したり、元通りに修理することもできるわけです。また、長年の使用による傷も、独特の風合いへと変化し、錫器ならではの魅力が生まれます。灰色がかったやわらかな光沢は錫ならではの味わいですが、気になる場合は柔らかい布で磨けばもとの美しさを取り戻すこともでき、メンテナスをすれば一生モノとして使うことができるのです。
第三に「熱伝導率が優れている」ことも大きな特性です。陶器に比べて1.8倍の速さで熱を移動させ、50倍のスピードで器全体に伝えることができます。お酒を燗にすればすばやく温まり、冷酒やワイン・ビールはより冷たい状態で楽しめます。第四に、錫は「甘くフルーティな芳香をもつ」不思議な金属です。金属にはそれぞれ固有の匂いがありますが、その中でも錫の果実のような芳香は、注いだお茶やお酒をより引き立てると愛好されています。
この他にも、「空気中や水中でも錆びない」「錫イオン効果による殺菌・鮮度保持機能」といった優れた特性が、古来より人々の心を捉えてきました。錫のコップにいれた水は腐らない、錫製の花瓶の切り花は長持ちするといわれるように、高い浄化作用をもつ希少な鉱物として長く愛されてきたのです。
日本酒専用の酒器にはいくつかの種類があり、大別して「飲む前の酒を入れておくもの」と「日本酒を注ぎ入れて口に運ぶためのもの」とに分けられます。最も古くから使われてきたのが「盃」。中央がくぼんだ皿状・円筒状の器で、底の裏側に高台がついています。材質は、土器・漆器・ガラス・金・銀・錫と、酒器の中でもバリエーションが豊富です。「盃を貰う」「盃を交わす」「盃流し」といった言葉もあるように、単なる酒器にとどまらず、儀式や婚礼・風習などと密接につながった文化媒体でもありました。
「おちょこ(猪口)」は、日本酒を入れて少しずつ飲む小型の器で、六角形や八角形・筒胴と多数の形があります。元来は本膳料理に用いられ、酢の物や和え物などの盛りつけに使われてきました。しかし、江戸時代中期から、酒器や蕎麦切り用の器として使われるようになり現在に至ります。この他に、日本酒を飲むための盃の一種として、「おちょこ」より少し大きめの「ぐい呑み」や、小さめのグラス「一合グラス」があります。
日本酒を入れる容器で、料亭などでよく目にするのが「徳利」。首が細く下部が膨らんだ形状で、陶器製や金属製があり、容量は1合から1枡程度まであります。近現代に入って、お酒がガラス瓶や缶で売られるようになる前までは、酒屋は徳利に入れてお酒を販売していました。あまり使われなくなったものに、燗をつけた酒を移し入れる器の「銚子」、器の縁に酒を注ぐための注ぎ口がついた「片口」、湯に浸して燗をつけるための取っ手がついた「ちろり」があります。いずれも日本の伝統食器ですが、今では居酒屋や小料理店で利用される程度です。
錫製の酒器を使うメリットには、次のようなものが挙げられます。1つ目は、「熱伝導率がいい」ため、燗をつけるときはすぐに熱が伝わり、熱燗や冷酒などの味を損ないません。熱いものを熱いままで、冷たいものはより冷たく味わえます。2つ目に、「優れた浄化作用・錫イオン作用」で雑味が抜けてお酒の味が整います。さらに、錫にはアルコールを醸造するときに生成される揮発成分・フーゼル油を溶かす作用があり、これがお酒を飲みやすく口当たりをまろやかにしてくれる秘密です。3つ目は、錫は「水中でも錆びない」ため、有害物質が溶け出す心配がなく、人体への悪影響もありません。最後に、陶器やガラスのように使い方や経年劣化で割れることがないので、子供から高齢者まで安心して使うことができるでしょう。
メリットの多い錫製の酒器ですが、使う際にはやはりいくつか注意点があります。先に述べたように、融点が低いので決して直火に掛けてはいけません。電子レンジの使用も厳禁です。熱燗にするときは特に注意して、鍋から目を離さないようにしましょう。取り出すときは器ごと熱くなるので、火傷には十分気をつけなければなりません。使用後は台所用中性洗剤で、傷がつかないように柔らかいスポンジで洗います。高温になる可能性があるので、食器洗浄機や乾燥機は避けたほうがよいです。変色・変質の恐れがあるため、「酸味の強いものや、色の濃いものをいれたままに放置しない」「冷凍庫や冷蔵庫に長時間入れない」といった点も留意しましょう。
錫には毒性がある」という誤解は、不純物として鉛が含まれている場合があるからです。鉛は長期の継続的な摂取で、不妊・高血圧・聴覚低下を招き、中枢神経系に作用して神経障害や学習障害を引き起こすと考えられています。おそらくは発がん物質でもあるといわれています。また、人工的に作られた有機錫の有毒性はよく知られていますが、これは化学物質です。日用品に使われている錫は無機錫(天然錫)であり、まったく異なる物質ですので心配ありません。
日本でも、江戸時代の錫器や骨董品の類には、鉛が多く含まれているものがあります。さらに、アジア地域でお土産として売られている錫製の食器や小物には、現在でも鉛が含まれている可能性が高いです。食器としては使わないようにとの但し書きを見ますが、これは鉛が含まれた製品であることを示しています。海外製や骨董品は、あくまで観賞用にとどめ、実際の使用は避けるようにしましょう。現在の日本で販売されている錫製品には、こうした問題はありません。食品衛生法により、鉛を含んだ合金は食器の素材として使用することを禁じられているからです。
錫製の酒器は、食品衛生法に則って作られている日本製が安心です。骨董品のような法律が制定される前の古い酒器や、海外製は鉛を含んでいる可能性があるので避けるのが無難でしょう。冷酒なら「ぐい呑み」や「1合グラス」、熱燗なら熱伝導率のよい「銚子」「片口」「ちろり」「おちょこ」がおすすめです。「おちょこ」や「ぐい呑み」は、適度な重量感があるものが手に持ったときや卓上に置くときのバランスがよいですね。
錫が日本酒の酒器として、優れた特性をもつことがわかったのではないでしょうか。陶器やガラスと比べて高価ですから、なかなか気軽に購入できるものではありませんが、使い始めればきっとそのよさを実感できるはずです。日本酒を楽しむパートナーとして、ぜひ錫製の酒器を選んでみてくださいね。
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