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2019年01月25日掲載 心に沢田研二を! 希望を奪う老害オヤジに絶対なるな

心に沢田研二を! 希望を奪う老害オヤジに絶対なるな

日経トレンディ2019/1/25掲載
BS12トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの対談も、ついに今回が最終回。前回は、クイーンの『Somebody To Love』のなかで、フレディ・マーキュリーがピュアな思いを歌い上げることの中にこそ「希望」がある、とマキタ氏が熱弁した。後半は、スージー氏が名曲『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に喚起される「オヤジ世代の永遠の少年性」の中に「希望」を見いだす。

社会の荒波で少年の夢を忘れる

スージー鈴木(以下:スージー):私が「希望」というテーマでお薦めするのは、2000年代につくられた曲の中で、最もいい曲だと思っている馬場俊英の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(作詞・作曲:馬場俊英)ですね。

一同:(ぽかんとしている)

マキタスポーツ(以下:マキタ):ばばとしひで?

――知らないですね。

スージー:いろんな若者がスクールデイズを終えて、世に出ていって、十数年後、大人になった彼らが苦労しているっていう内容の曲です。

マキタ:ほぉ。

スージー:ある男は高校時代、野球をしていて、卒業後は社会の荒波にもまれる。

マキタ:ふぅん。

スージー:もう一人の男は「ゆうじ」という名前で、山梨から東京に出くるんです。

マキタ:それ、俺だよ。山梨で生まれて、地元の高校を卒業して、18歳で東京に出てきた槙田雄司(ゆうじ)だよ!

スージー:歌詞を読みますね。

〽 「これが最後のチャンス」と電話口でささやいて
  祐次は今年32歳 山梨に妻を残し 東京

マキタ:あっ、俺はカミさんと一緒に東京に住んでたから、ちょっと違うな。

スージー:続きを読みます。

〽 ワンルームのマンションから夜の甲州街道を見下ろして
 煙草に火を点けては消し 消してはまた火を点け直し
 「明日のことは誰にだって分かりっこない」って
 せめてつぶやいて
 見上げるのは東京の夜空
 そして今は遠い遠い遠い 山梨の街

――なんだか、情景が浮かんでくるような歌詞ですね。

スージー:何人かの若者たちの物語なんです。で、最後、主人公はおっさんになって、バッティング・センターに行くんですよ。ちょっと読み上げますね。

〽 ところで 今 オレは
 通りがかりのバッティング・センターに入り

で、少年時代のことを思い出して、

〽 時速140キロのゲージで順番を待っている

ここから、だんだん気持ちが盛り上がっていきます。

〽 一体誰があの日オレに一発逆転を想像しただろう?
 でもオレは次の球をいつだって本気で狙ってる
 いつかダイアモンドをグルグル回りホームイン
 そして大観衆にピース!

一同:(「ピース!」の絶叫に圧倒され、無言でスージー氏を見つめる)

心に沢田研二を! 希望を奪う老害オヤジに絶対なるな

『ボーイズ・オン・ザ・ラン』ってどういう歌詞なの?

バッティング・センターで140キロの球を打て!

スージー:いったい何を歌っているかというと、野球少年が大人になって、社会の厳しさに苦しんでいるんだけど、「あの頃は、一発逆転ホームランを狙ってたじゃないか!」って少年時代を思い出して、「もう一回だけ踏ん張って、がんばってみよう!」と決意する歌なんです。

マキタ:うん。

スージー:バッティング・センターに行けば、野球少年だった当時の自分を思い出すっていう歌なんです。

マキタ:ほぉ。

スージー:おっさんになっても『ボーイズ・オン・ザ・ラン』。僕たちはいつまでも“走り続ける少年”だっていうことで、50を超えたら、バッティング・センターに行こうじゃないか!

マキタ:はっはっはっは!

スージー:でも、バッティング・センターにたまに行くのは、決まって酔っ払ったときなんですよね。

マキタ:そうそう!

スージー:で、球速70キロとか、80キロとか。もしくは、ネタで、カーブとかのところで打ってみたり。

マキタ:そう、そう、そう!!

スージー:でも、「希望」を持つためには、球速70キロじゃダメなんです。そこはあえて、野球経験者しか並ばない140キロのところで打ってほしいですよね。

マキタ:怖ぇよ! ほんと、怖ぇよぉー、140キロは。

――私も中学、高校と野球部でしたが、140キロなんて、一球たりともかすりもしないでしょうね。

スージー:僕は『週刊ベースボール』に長らく連載しているくらい野球が好きですが、聞いたかぎり、この十数年間で、最も優秀な“野球関連の歌詞”の名曲です。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』で少年時代の熱い思いをよみがえらせるのが「希望」につながるということで、読者にささげたいですね。

マキタ:へぇー。全然、知らなかった。

スージー:僕も昔、野球してましたが、この歌の主人公と同じで、逆転ホームランとか、打ったことありません。けれど、せめて「本気で狙っていた自分」を思い出して、がんばっていこうじゃないですかって。

マキタ:聴いてみたい。

スージー:めっちゃ、いい曲ですよ。

心に沢田研二を! 希望を奪う老害オヤジに絶対なるな

カキーン!! 140キロのボールをはじき返したスージー氏。その背後で、熱くオヤジの希望について語り続けるマキタ氏

“永遠の野球少年”ジュリーがオヤジの希望

――では、「歌」とは別に、この窮屈な時代にオヤジが「希望」を持つために、何かアドバイスをお願いできますか。

スージー:では、今度は私から。やはり、オヤジは心の中に1人、「沢田研二」をインストールしてほしい。

マキタ:はっはっはっは!

広報T女史:インストールしちゃうんですね。

スージー:沢田研二をインストールしたら、その後は、同調圧力に屈することなく、自分というものを尊重し、そして、一本、筋を通す。

マキタ:なるほど。

スージー:カミナリオヤジとか、面倒臭いオヤジになれっていう話じゃないんですけど、周りが筋を通さないときには、きっちり疑義を唱える。

――でも、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』が思い出させてくれるのは「ピュアな少年時代」で、沢田研二が体現してくれたのは「筋を通すオヤジ」ですから、「少年」と「オヤジ」ということで、2つのメッセージに齟齬(そご)がありませんか?

スージー:まったく、ありません。沢田研二こそ“永遠の野球少年”なんですから。

――でも、“ジュリー”と“イガグリ頭の球児”っていうのは、ちょっとイメージが合わないんですが……。

スージー:京都市立岡崎中学校野球部、キャプテンですから。

――球児で、キャプテンだったんですか?

スージー:さらに、阪神タイガースのファンで、もと「ザ・タイガース」。

――確かに、そこも“野球つながり”ですね。

スージー:沢田研二は、2003年のアルバム『明日は晴れる』で、『阪神タイガースの歌』(作詞:佐藤惣之助、作曲:古関裕而)、通称『六甲おろし』をカバーしています(曲名は『ROCK 黄 WIND』)。伝説の大阪・京セラドーム、東京ドームでの沢田研二 還暦記念コンサート「人間60年 ジュリー祭り」では、その自分が歌う『六甲おろし』をバックに、客席に野球のボールを投げましたからね。

――オヤジの希望である“筋を通す沢田研二”と、オヤジに希望を与える“自らの少年時代”とは、しっかりシンクロしているんですね。

スージー:そうなんです。

心に沢田研二を! 希望を奪う老害オヤジに絶対なるな

「これです!」と『ボーイズ・オン・ザ・ラン』をアピールするスージー氏

若き日本のガールズバンドにクイーンとの共通性を見た!

――よく分かりました。それでは、マキタさんからも、今、オヤジたちが希望を持てるヒントをお願いします。

マキタ:僕は『Somebody To Love』と、併せてもう1曲、紹介したい曲があるんです。2014年に発売された北海道出身のガールズロックバンドDrop’sの『コール・ミー』(作詞・作曲:中野ミホ)です。

スージー:ほぉ。

マキタ:当時、まだ20歳を過ぎたばかりで、こういう子たちが、こういうルーツ・ロックとかをちゃんと現代の社会に向けてやってくれること自体に希望が持てます。あと、すごくピュアな精神性。いつの時代になっても普遍的な若者の叫び。『Somebody To Love』の「私を愛してほしい!」っていう欲望と共通したことを歌ってるんです。

――なるほど。

マキタ:オヤジ世代は、ともすれば昔の歌やアーティストを懐かしんでばっかりいるけれど、新しい子たちに目を向ければ、ちゃんと歌っている子たちだっている。僕の役目としては、そういう子たちをピックアップして、「おじさんたちも、ちゃんと聴いてよ。これ、われわれの世代が好む音楽だからさ」って、つなげていくことかな。

スージー:はい。

マキタ:『ザ・カセットテープ・ミュージック』では、僕もスージーさんも昔の曲と現代をつなぐ役目というか、現代性に基づいてピックアップしてる。ただ単に懐古主義でアナクロなことをやっているわけじゃない。今の歌や音楽もいいし、今の若い人たちの発信が、なんでもかんでもダメだと言ってるわけじゃなく、その中でもちゃんといいものがあるから、僕はそれを紹介していきたい。「若い人、かっこいいよ」って。

スージー:(黙ってうなずく)

マキタ:昨年12月の『M-1グランプリ』では、若い2人組の「霜降り明星」が優勝しました。それって、すごくいいことだと思ったんです。

――史上最年少の優勝でしたね。

マキタ:まだ、2人とも20代半ばで、あのくらいの年齢の人たちが活躍する社会にさせないのは、おじさんたちの世代だと思うんです。

――はい、はい。

マキタ:若い人たちを圧迫して、物分かりが良くなるようなしつけというか、おとなしくさせているのは、おじさんたちです。

スージー:はい。

マキタ:「希望のない社会」とか「経済が停滞している」とか言ったって、結局、権限を持っている大人たちが若い人たちにチャンスをあげなければ、夢のある、希望のある社会なんてつくれない。

――なるほど。

マキタ:老害というか、既得権益を持っている側の人間が若い人たちを育てないことによって、閉塞感が生まれている気がする。若い人たちに「上がつっかえてるから、俺たちはいいよ」みたいな気分がまん延しているのであれば、希望を持ちようがないじゃないですか。

――そうですね。

マキタ:若い人たちが「俺たちは俺たちでやってるから、ほっといてよ」となって、おじさんたちはおじさん同士で、昔の歌を懐かしんで傷をなめ合えるみたいな感じになってくると、ろくなことはない。

スージー:ないね、ろくなことはない。

――ということは、今の時代の希望をつくるためには、オヤジ世代が若い子たちにチャンスを与えてこそ、ということですか。

マキタ:絶対、いいと思いますよ。

心に沢田研二を! 希望を奪う老害オヤジに絶対なるな

「今の歌や音楽もいいし、今の若い人たちの発信が、なんでもかんでもダメだと言ってるわけじゃなく、その中でもちゃんといいものがあるから、僕はそれを紹介していきたい。『若い人、かっこいいよ』って」

快活でご機嫌な生きざまを見せろ!

――では、この連載を締めくくる、読者への「最後のメッセージ」をお願いします。

スージー:私は「快活」という言葉を送りたいです。快く活性化する。快活に生きる。「アクティブ・シニア」という言葉があります。「活発なシニア」とか「生き生きしたシニア」という意味です。でもね、そんな「アクティブ(active)」だけじゃなくて、「カンファタブル(comfortable)」であることも、大事じゃないかって思うんです。

――カンファタブル(快い)でアクティブ(活発な)だから「快活」というわけですね。

スージー:無理せず、気持ち良く。一説には、にこにこ笑ってストレスがなければ、病気にもがんにもならず、長生きできるといわれています。まあ、あんまり肩肘張って、眉間にしわ寄せて生きるんじゃなくて、気持ち良く、かつ、生き生きと暮らしていこうじゃないですか、と。アクティブだけで、カンファタブルを忘れてしまうから、良くないんじゃないかって。これからは、私も“快活”に生きたいと思います。

マキタ:なるほどねぇ。永ちゃんも、なんかで言ってたもんなぁ……(矢沢永吉風に)カンファタブル!

一同:(笑)

マキタ:永ちゃんの生き方には、まさに「カンファタブル」がありますもんね。

スージー:気持ちいいんでしょうね。

マキタ:気持ちいいんでしょうね。勝手に生きてるから。そんな生き方に憧れて、われわれファンも勝手に追いかけてるだけだから。

心に沢田研二を! 希望を奪う老害オヤジに絶対なるな

カムフォータブル!(永ちゃん風)

――では、マキタさん、連載最後の読者へのメッセージをお願いします。

マキタ:今、世の中は、窮屈な感じの過干渉社会だと思うんです。それだと、あんまり自由な表現や音楽は生まれてこないと思います。

スージー:(黙ってうなずく)

マキタ:何かの話で聞いたことがあるんですけど、馬って、基本的には主体性がないらしいんです。いつも走ってるイメージがありますけど、基本的には気が小さくて、走りたくないんですって。本当は怠け者で、ずっと草食って、おしっこして、うんこしていたい。ほかには何もしたくないんですって。その中に、一頭だけ、ちょっと行儀の悪い子がいて、その子にちゃんとしたしつけを施すと、ほかの馬を連れて走ってくれるような、リーダーシップを発揮する馬になるんですって。

――ほぉお。

マキタ:ただ、そんな才能のある馬でも、縛り付けて、むち打って、行儀の悪さを矯正してしまうと、その子の持ってる“リーダー”としてのポテンシャルを潰してしまう。縛り付けられることが苦手な馬には、自由を与えて、協調するかたちでその馬の特性を生かして、リーダー的存在へと導いてあげることが、いい調教になるんですって。

――そうなんですか。

マキタ:馬の話ではないですけど、今のオヤジ世代の人たちって、将来リーダーシップが発揮できそうな若者たちの可能性や、何か大事なものまで、奪ってしまっていないでしょうか。

スージー:(小さくうなずく)

マキタ:オヤジ世代が若い世代に何かを伝えるとき、縛り付けたり、叱りつけたりするんじゃなくて……どうせなら、若者たちから憧れられたほうが良くないですか?

スージー:そっちのほうがいいですよね。

マキタ:ただ、そんな才能のある馬でも、縛り付けて、むち打って、行儀の悪さを矯正してしまうと、その子の持ってる“リーダー”としてのポテンシャルを潰してしまう。縛り付けられることが苦手な馬には、ある程度自由を与えて、厳しくしつけるところはしつけて、その馬の特性を生かして、リーダー的存在へと導いてあげることが、いい調教ということらしいです。

――どうも、ありがとうございました。

心に沢田研二を! 希望を奪う老害オヤジに絶対なるな

またどこかでお会いしましょう(『ザ・カセットテープ・ミュージック』はまだまだ続きます!!)
(構成/佐保 圭)

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