
BS12トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの対談も、いよいよ最終回を迎える。テーマは「希望」。組織の一員として、一家の長として、がむしゃらに働き続けて、ふと気づけば「定年」という名の人生のリスタート地点が目前に迫っている。気力も体力も衰えた今、それでも未知なる原野に踏み出さなければならないオヤジ世代に勇気を与えてくれる「希望の歌」とは何か。マキタ&スージーが魂をこめて伝えてくれる。
――今回のテーマは、この連載の最後のテーマにふさわしく「オヤジ世代に“希望”を与える歌」です。
マキタスポーツ(以下:マキタ):じゃあ、僕から行きましょうか。1976年にリリースされたクイーンの『Somebody To Love』(邦題『愛にすべてを』、作詞・作曲:Freddie Mercury)です。
スージー鈴木(以下:スージー):おぉっ。
マキタ:昨年11月に封切られた映画『ボヘミアン・ラプソディ』(原題:Bohemian Rhapsody、監督:Bryan Singer)は、日本でも大ヒットしました。この曲で僕がオヤジの人生に「希望」をもたらすヒントとして紹介したいのが、歌の中で何度もくり返される「誰か、私の愛する人を見つけてくれないか」っていう、あの有名なサビの部分です。
――というと?
マキタ:この連載企画で、僕が一貫して伝えたいことであり、自分にも言い聞かせていることなんですけど、なんか、胸が熱くなるっていうか、自分が熱心になれるもの、情熱を傾けられるものがないと、やっぱり人は生きていけないんじゃないかって。
スージー:はい。
マキタ:たとえお金がいくらあったとしても、寂しいのは本当にごめんだし、魂の充足がないことほどつらいものはないと思う。孤独や寂しさが、一番、人間の心をダメにする。
――分かります。
マキタ:そんな孤独や寂しさをほったらかしにしておくと、対人関係を避け、社会からの刺激を避け、思い込みや周囲に対する拒絶によって、なんとか自分を保つようになってしまう。そういう自分の“心”や“魂”みたいなものに対する怠惰な生き方は、ある意味、楽なのかもしれない。情熱が傾けられるものを探しても見つからないリスクより、希望に背を向けて、ただ漫然と生きていたいというのも、人間の性(さが)としては、理解できます。
一同:(黙って聞き入る)
マキタ:「誰か、私が愛せる人を見つけてくれないか」っていうのは、なんだか“ひと任せ”だから、しち面倒くさいっていうか、あるいはみっともないフレーズかもしれません。そういう本心や外部との接触を拒絶すれば、一見、自分の気持ちをわがものにしてるようにも思える。
スージー:(小さくうなずく)
マキタ:でも、本当は「死ぬ前に、もっと夢中になれるものを探したいんだよ」とか「私だって愛されたいんだよ」とか「誰か私が愛せる人を見つけてよ」みたいなことをみっともなく叫びたくなる気持ちというのは、もともとみんな持っていると思うんです。
スージー:はい。
マキタ:オヤジ世代になると、そういうピュアな欲望というか、純粋な思いをできるかぎり遠ざけたり、懸命にごまかしたりすることって、ありますよね?
――あります。
マキタ:この曲では、そうやって避けられがちな“叫び”みたいなものが、ストレートに表現されている。しかも、根元的に響くというか、魂の一番根っこの部分を揺さぶられるような気がするんですよ。
――確かに、そうですね。僕もクイーンは大好きで、中学生のころから聴いていましたが、50を超えてオヤジ世代に入った今のほうが、そういうストレートなメッセージをより強く感じるようになったように思えます。
マキタ:でも、実は僕、若いころはクイーン、そんなに好きじゃなかったです。
――えっ、そうなんですか?
マキタ:最初は、普通にいいと思ったんですよ。初めてクイーンを聴いたのは『Don’t Stop Me Now』(作詞・作曲:Freddie Mercury)でした。
――映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも、エンドロールで流れる代表曲の1つですね。
マキタ:ラジオで聴いて、ポップな曲調とか、リズムの軽快さとか、メロディアスな鍵盤とか、ギターの格好よさとか、「すげぇ、いいなぁ!」と思ってました。だけど、80年代に入ったら周りのクイーンの評価が、全然違ってきちゃったんです。
スージー:(うなずく)
マキタ:そのころになると、「クイーンが好きだ」って、うかつに言えない空気感があった。当時の僕には、誰かが作った見方とかに左右される弱さがあったので、周りの雰囲気に影響されて「そうだよな。クイーンって、なんか、変だよな」みたいなことを言ってました。もともとは子ども心に「かっこいい、すてきな曲を聴かせてくれる人たち」と思ったんですけど……なんか、変わってしまったんですよ。
スージー:はい。
マキタ:潮目の変わった瞬間は見てないんだけど、変わってしまった。無邪気に「クイーンが好き!」って言えない雰囲気が……。
スージー:ありましたね。
広報T女史:特に、男子が言えなくなったように感じました。
マキタ:クイーンの存在自体もそうなんですけど、ボーカルのフレディ・マーキュリーの……なんていうか、自由さとでもいうか……いわゆるジェンダーを超えたからこその孤独って、あるじゃないですか。
スージー:えぇ。
マキタ:ほかの人たちとはバックボーンが違うから。「愛されたい」っていう欲望が強すぎて、孤独を感じざるを得ない。だからこそ、その反動ですごく寂しさを抱えているっていう……でも、「愛されたい」っていうピュアな部分は、誰しも心の底に持っているんじゃないかって。
スージー:うん、うん。
マキタ:クイーンの曲って、捨てどころがないくらい、全方位的にポピュラリティーがあるっていうか……だから、何十年もたって、今の時代の人たちが映画を見ても、フレディが叫んでいた独特のピュアさみたいなものを感じとることができる。そこに“希望”があると僕は思うんです。
――独特なピュアさを感じとれることが“希望”なんですか?
マキタ:久しぶりにクイーンとか聴いてると、なんか、心の一番深いところ、魂の一番ピュアな部分を突かれている感じがするんです。『Somebody To Love』って、ゴスペルじゃないですか。
スージー:ゴスペルですね。
マキタ:有無を言わさず、魂の一番深いところを揺さぶる音楽なんです。どんな曲をつくるときでも、フレディはその点を大事にしていたんじゃないかな。だからこそ、「自分の一番ピュアな情動をごまかさないで、ちゃんと信じていいんじゃないか」っていう「希望」を与えてくれるんですよ。
――なるほど。
マキタ:曲に打ち震えて、感動して涙が込み上げてくるとき、体の奥から力が湧くじゃないですか?
スージー:はい。
マキタ:そのままの気持ちで生きればいいじゃないですかって、僕は思いますよ。
「でも、『愛されたい』っていうピュアな部分は、誰しも心の底に持っているんじゃないかって」
スージー:『Somebody To Love』は曲自体もいいですけど、なんといってもブライアン・メイのギターソロね。
マキタ:そうだよね。
スージー:(正確な音程でギターソロを口ずさむ)タラレェーイ、タラレェーイ、タララララレィーイ!
一同:おぉ!
スージー:(長渕剛風に)しゃぶりつぅくぅー!
マキタ:はっはっは!
スージー:フレディ・マーキュリーの追悼コンサートでジョージ・マイケルが歌った『Somebody To Love』は……。
マキタ:素晴らしかったですよね。
スージー:良かったぁー。
マキタ:僕、思うんだけど、ゲイの人たちには、たとえ社会的には好まれざる場所だとしても、「あたしはここに行きたいのよ!」って、自分の思いを貫くピュアさがあると思うんですよ。
スージー:はい。
マキタ:「サンシティ問題」ってあったでしょ?
――1984年、クイーンが白人中心の人種隔離政策(アパルトヘイト)をとっていた南アフリカ共和国のリゾート地「サンシティ」でコンサートを開いて、世界中からバッシングされた話ですね。
マキタ:えぇ。
――当時、クイーンも入っていたイギリスのミュージシャン組合が南アフリカでの公演を禁止していたから、帰国後、違約金を支払わされ、国連のブラックリストにも加えられ、「人種差別に加担してまで金もうけがしたかった」などと痛烈に批判されました。一方で、メンバーは「自分たちの音楽を聴いてくれるファンがいればどこでもやる」という考えで行っただけで、メンバーは危険を顧みず、現地でアパルトヘイトに反対する活動もしていたので、同組合は除名から罰金に切り替えたという話もあります。
マキタ:そう、サンシティに行って、クイーンはパージされちゃったけど、あれって世の中のトレンドに左右されただけじゃないかって。
スージー:はい。
マキタ:クイーンの曲って、永遠普遍じゃないですか。トレンドとか、その時代の思想とはかけ離れた次元で貫かれるものが……たとえば「パーティーって最高よ!」みたいな。
スージー:(小さくうなずく)
マキタ:そういう突き抜けたものがあると思うんですよ、クイーンに、あるいはフレディに。それは、イデオロギーとか思想とか、右とか左とか、トレンドとかとは違うところにある。
スージー:(大きくうなずく)
マキタ:突き抜けた自由さみたいなもの、自由で、それでいてすごくアグレッシブなものだと思うんです。
「『Somebody To Love』は曲自体もいいですけど、なんといってもブライアン・メイのギターソロね」
スージー:あの曲の冒頭の歌詞でもある「Can anybody find me ……」は、直訳すれば「誰か、私が愛する人を見つけることができますか?」ですが、その言葉の裏には「誰か、私のことを愛してくれる?」っていう意味も込められている気がするんです。
マキタ:そう、そう。
スージー:「誰か私のことを愛せますか?」って。
マキタ:そう、「愛せますか?」って。
スージー:映画の中でも、フレディ・マーキュリーの強い孤独感が描かれていますよね。
――この連載の「孤独」がテーマの対談でも、オヤジ世代は「孤独感が強い」という話が出ました。
マキタ:絶対そうでしょ? サンシティ問題のときもクイーンを世界が批判したけど、「政治的な問題は別として、クイーンの音楽は最高!」でいいんじゃないの? 「そんとき感動したことがすべてじゃん!」っていう気持ちはちゃんと大事にしたいなぁっていうのが、われわれオヤジ世代にとっての「希望」だと思うんです。
スージー:音楽評論家の間では、イギリスで1976年にリリースされたアルバム『華麗なるレース』(原題:A Day At The Races)が一番軽んじられてる。クイーンは「ビジュアル人気」のバンドで、音楽は大したことないとかなんとか言われたころのアルバムですが、誰がなんと言おうと、『Somebody To Love』がB面トップに収録されている名盤『華麗なるレース』をもう一回聴く。いいんじゃないですかね。
マキタ:人の意見に左右されたり、トレンドに左右されたりするのはもういいでしょって。そんなものに振り回されず、自分の好きなことだけ、自分の速度で極めればいいじゃないですか。それがオヤジ世代の希望だと僕は思いますけど。
――なるほど、分かりました。では、スージーさんは?
スージー:私が「希望」というテーマでお薦めするのは、2000年代につくられた曲の中で、最もいい曲だと思っている馬場俊英の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(作詞・作曲:馬場俊英)ですね。
一同:(ぽかんとしている)
マキタ:ばばとしひで?
――すみません……僕も知らない曲です。
(つづく)
『ザ・カセットテープ・ミュージック』の収録は「ビートルズ」特集でした。ビートルズもやりたかったなあ……
(構成/佐保 圭)
日経トレンディ2019/1/18掲載
前回は、クイーンの『Somebody To Love』のなかで、フレディ・マーキュリーがピュアな思いを歌い上げることの中にこそ「希望」がある、とマキタ氏が熱弁した。後半は、スージー氏が名曲『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に喚起される「オヤジ世代の永遠の少年性」の中に「希望」を見いだす。
「お金」をテーマとした対談の前半戦は、スージー氏の「アラフィフは、お金をかけずにもっと発信しよう!」というメッセージのあと、マキタ氏の「人間は単なる“うんこの通り道”」という問題提起によって、一気にヒート・アップ! 対談の後半戦では「お金」と「うんこ」の類似性に触れながら「オヤジ世代の理想の“お金の使い方”」へと議論が深化する。
今回のテーマは、ずばり「お金」。家族の生活費や子どもの教育費、さらには自分の老後の準備など、何かと「お金」が必要になるアラフィフのオヤジ世代は、お金とどんな付き合い方をすればいいのか。折り返し地点を過ぎた残りの人生を豊かにするために、お金との付き合い方のヒントをくれる曲について、マキタ&スージーが伝授してくれた。
前半では、スージー氏が「騒動の理由は沢田研二が筋の通らないことに激怒したから」という持論を展開。それを受けて、後半では、マキタ氏が「ある程度の年齢に達した人間は、ジュリーのように生き方をシンプルにするべきではないか」という“オヤジ世代が学ぶべき人生論”を読者に問いかけた。
今回のテーマは「沢田研二に“オヤジ世代の美学”を学ぶ」。2018年10月17日、70歳記念全国ツアーのさいたまスーパーアリーナ公演を直前になって突如中止したジュリーについて、世間ではさまざまな批判が飛び交い、騒動となり、ジュリーは謝罪会見まで開くことに……。しかし、本当にそれで良かったのか? オヤジ世代の代表として、ジュリーを応援するマキタ&スージーが、軽々しく「沢田研二」を批判する風潮に物申す!
前回の「レベッカの『MOTOR DRIVE』に刺激を受けて、やりたいことをやって健康になろう!」というスージー氏の話とはうって変わって、マキタ氏は山下達郎の名曲から受け取る「祈り」や「感謝」の話を基に、情報が氾濫する現代社会の病理に鋭く切り込み、オヤジ世代が求めるべき「健全な感性」の大切さを訴えた。
80年代にカセットテープで聴いていたあの名曲。マキタスポーツとスージー鈴木の「音楽ずきおじさん」が独断で熱く語ります。
「カラフルパレット」Yu-ki・あきひろが、ナビゲートする音楽情報番組です。
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三沢あけみが、歌謡界の旧知の歌手仲間や後輩たちをゲストとして招いて「お茶会」を開催。 昭和歌謡の思い出話や最新の歌謡曲などの話に花を咲かせます。
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