
BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。「お金」をテーマとした対談の前半戦は、スージー氏の「アラフィフは、お金をかけずにもっと発信しよう!」というメッセージのあと、マキタ氏の「人間は単なる“うんこの通り道”」という問題提起によって、一気にヒート・アップ! 対談の後半戦では「お金」と「うんこ」の類似性に触れながら「オヤジ世代の理想の“お金の使い方”」へと議論が深化する。
――アラフィフのオヤジ世代にとって「お金をためることが必ずしも“いい選択”ではない」ということでしょうか。
マキタスポーツ(以下:マキタ):なんか「いい消費」っていうか、自分にとって「いい買い物」とかしてるほうが、経済の中で「自分がお金の通り道」だと実感できて、健康的な感じがするんですよ。
スージー鈴木(以下:スージー):確かになぁ……。
マキタ:僕、そんなにうまくいってるほうではないですけど、うんこにはゴボウとマイタケがすごくいいですよね。
一同:(笑)
スージー:ほぉおー。
マキタ:食物繊維の塊みたいでお薦めなんですけど、あれを食べるとね、ほんとに「自分がうんこの通り道」だって、実感できるんです。
スージー:なるほど、なるほど。
マキタ:「金は天下の回りもの」っていうけど、「人はうんこの通り道」っていう標語も、広めたいですね。
スージー:確かに七五調で、座りがいいですよね。
――先ほど、マキタさんの「うんこが俺を脱いだ!」っていう発言に対して、スージーさんが「実存的だ」とおっしゃいましたが、考えてみると、実存主義者のサルトルが1938年に書いた最も有名な著作は『嘔吐(おうと、原題:La Nausée)』であることも、ただの偶然とは思えませんね。
スージー:おぉ、そうか、そうか。実存主義だ。でも、確かに50歳を超えたら、何にお金を使うか、何で大人買いするかが、大切になってきますよね。
――というと?
スージー:これまでの時代では、お金について“ためる概念”しかなかった。あるいは、何か“いいもの”を所有することに価値が置かれていた。けれど、現代は「車も所有しなくていいんじゃないか」「カーシェアリングとかでいいんじゃないか」となってきた。
――そうですね。
スージー:車とか、家とか、今までステータス・シンボルだったものが、どんどん、どんどん、所有しなくてよくなってきた。フロー型とでもいうか、クラウド型とでもいうか……そうなってくると、本当に「何を大人買いするか」で、オヤジ世代の人生が決まることになってくる。
――なるほど。
スージー:音源も、最近、所有しないじゃないですか。サブスクリプションサービスのほうに移行して。
マキタ:そうですね。
スージー:昔はレコードを大人買いしたもんです。「陳列ケースのこっから、ここまで!」って。今、それもあんまり意味がなくなってきた。そう考えると「何を大人買いするか」っていうことで、その人の審美眼が問われるわけです。
――スージーさん自身は、何を大人買いしたいですか?
スージー:あぁ。僕は何を大人買いしようかなぁ……。
マキタ:僕、スージーさんを見てると、なんか、いいお金の使い方してるなって思うんです。
――どんなところがですか?
マキタ:スージーさんには「野球」っていう好きなものがあってね、年間、何十試合も見にいったりする。まぁ、ひょっとしたらカスみたいな試合とかもあるかもしんないから、しんどいことかもしれませんけど……。
スージー:はい、カスみたいな試合、ありますね。
マキタ:だけど、スージーさんは野球を「点」で見てないから、それでも構わないと思ってる。ただ、野球に全く興味のない人から見たら「なんでハズレもあるのに、野球の試合をたくさん見にいくために、そんなにお金を使うの?」っていうことになっちゃう。
スージー:それはあるかもしれません。野球の試合はライブなものだから、所有できない。だけど、僕にとっては年間40試合も野球観戦に行ったりするほうが大事で、所有できるファッションとかにはほとんどお金をかけない……今だって、こうやって(と言うと、足を上げ、パックリと靴先の開いた革靴を見せながら)底のはがれてしまった靴をはいてます。
マキタ:あっはっは!
スージー:僕、これでもいいんです。「高級な靴を買うこと」と「野球を40試合見ること」のどちらかを選ぶとすれば、野球観戦を優先して、はがれた靴のほうを選ぶ……っていう50歳がいても、いいんじゃないかっていう時代ですよね。
――ほぉ。
スージー:もっと言えば「車を持ってなくてもいいんじゃないか」っていう“アラフィフの時代”ですよ。
マキタ:ですよね。
――それって、お金やうんこは人間が“持つもの”ではなく、“通すもの”であり“消費するもの”っていう話にも、通じますね。
スージー:ライブな野球観戦なんて、まさに“所有できないもの”じゃないですか。楽しめるのは、その場の一回こっきりで、中にはクソみたいな試合もあるわけです。野球ファンにとって「10対9」とか「4時間」の試合なんて、最悪なんですよ。
マキタ:はっはっは!
スージー:「3対2」くらいで「2時間10分」くらいの試合がいいんです。
――なるほど。
スージー:でも、行ってみなきゃ分かんない。だから、野球観戦は所有の概念じゃなくて、フローの……うんこの価値観っていうのかな、ライブ消費なんです。
マキタ:スージーさんは、ライブ消費、絶対してると思う。
――そういう観点から見ると、今の日本人って「便秘になってる感じ」でしょうか。
マキタ:えぇ、そんな感じ、しません?
僕にとってはファッションなんかより、年間40試合も野球観戦に行ったりするほうが大事なんです……
――では、マキタさんは、どんな“ライブ消費”をしていますか。
マキタ:一家庭人として、子どもも育てている最中だから、お金もちゃんとためなくちゃいけないとかって、当然思うんですけど……やっぱり、お金の使い道として「食事ってどうなの?」とは思うよなぁ。なんにもたまりもしないし。
スージー:それこそ、うんこになるもんですからね。
マキタ:まさに、うんこになるもんなんだけど、ただ、明らかに「食べてるとき」って、すごく集中力が研ぎ澄まされてるっていうか……なんですかね、僕には見えるんですよ、勝利までの道、ウイニング・ロードが……。
一同:(ぽかんとする)
マキタ:ほら、たとえば焼肉屋とかに行っても、なんかゾーンに入っているみたいな瞬間があってですね。この肉とこの野菜を組み合わせて、オイキムチにいって、ご飯を食べると、とんでもない至福の世界が……。
一同:(クスクス笑い)
スージー:(真剣な表情で)あぁー、なるほど。
マキタ:自分の中で「やったぁー!」って、喜びのくす玉が割れる瞬間が見えるんですよ。
一同:(ゲラゲラ笑い始める)
スージー:(深く感動した口調で)あぁ、それは優れた能力だなぁ。
一同:(スージー氏の言葉を聞いて、笑うのをやめる)
マキタ:たとえば、ホテルの朝食バイキングとかでは、トレイとか持って、バイキングのエリアをぐるっと一周しながら、まず一度、頭の中でメニューを組み立てるんですよ。
――メニューを組み立てる?
マキタ:最初は、血糖値を抑えるために、生野菜を適度に食べる。
スージー:Cmaj7に始まり……。
マキタ:そうそう、そのあと「卵もの」。ひと口に「卵もの」といっても、タイプがいくつもある。スクランブル・エッグは定番だけど、たまに、シェフが自分でオムレツを作ったりしているでしょ?
スージー:えぇ。
マキタ:だから、ちゃんと選ばなくちゃいけない。温泉卵もあるし……温泉卵の場合は「どういうふうに使うのか」も考えなければいけない。
スージー:はい、はい。
マキタ:さっきのサラダにオンすれば、卵もので2種類いけるよね、とか。
スージー:Em7/Gですね。
マキタ:で、さらにこのオムレツは標準でもおいしいんだけど、「さっきの味噌汁のコーナーにいい分葱(わけぎ)があったな」って。分葱を取ってきて、自分でトッピングするとオンコードになる。
スージー:来た! 分数コード、ナインスだ!!
一同:(爆笑)
マキタ:みたいなことが、頭の中で、バババババッと組み立てられて、最後、明太子をのせて、ご飯の最後のひと口をガッといただいて、すべてがきれいに済んでいるっていう状態まで考えたりするんです。それって、自分の頭の中にはあるけれど、全く誰とも共有することができないんです。
スージー:(深くうなずく)
マキタ:食べ物を食べることと、音楽の構造を分析したりとかすることって、僕の中では割と似ているんですよ。
僕には見えるんですよ、勝利までの道、ウィニング・ロードが……
スージー:それって、かなり音楽のアレンジに近いですね。
マキタ:そうですね。
――前から、そうなんですか。
マキタ:小さい頃から、そうやって頭の中で組み立てることが楽しみだったんです。だから、僕が「10分どん兵衛」ってものを紹介したとき、一瞬、プチブームになりましたが、あれも、僕がただ個人の癖としてやってたことなんですよ。
――インスタントの「日清のどん兵衛」は、パッケージには「熱湯5分」って書いてあるけど、あえて10分待ってから食べるとさらにおいしくなるって、ネットで話題になりましたよね。
マキタ:はやらそうとか、バズらそうなんて全く思ってなくて、お湯をかけて10分待ってみたら、麺がふくよかになっておいしくなるんじゃないかっていうウイニング・ロードが勝手に見えちゃうから、やるわけですよ。
――そうだったんですか。
マキタ:そしたら、それが結果的にウケただけ。僕としてはこれも、誰とも共有できない、恥ずかしい習性みたいなものだった。
スージー:なるほど。
マキタ:その代わり、スージーさんが年間何十試合も野球を観に行くように、僕はひとよりインスタント麺をめちゃくちゃ食ってます。でも、それをあまり苦痛だとは思ってないんですよ。
スージー:うん、うん。
マキタ:ただ、落語のオチみたいな話になりますけど、インスタント麺ばかり食べていると、いいうんこが出ないんですよ。
一同:(う~んとうなる)
スージー:はっはっは! さすが、古今亭志ん生の世界ですね。
マキタ:そんで、ここで「一杯のインスタント麺が怖い!」っつって。
スージー:(笑いながら)「いけねぇ、夢になっちまう」って! そう言えば古今亭志ん生は「ビールはおしっこになるが、酒はうんこになる」って言ってましたね。
――では、最後に、今回の「お金」がテーマの対談をまとめていただけますか。
スージー:何を大人買いするかで、オヤジ世代の残りの人生は決まる。
――なるほど。マキタさんは?
マキタ:お金をうんこだと思う。うんこをお金だと思う。「自分はうんこの通り道」であるように「自分はお金の通り道」でもあるということにもう一回、立ち戻って考えて人生を送っていただきたいな、と。
スージー:落語でいう『黄金餅(こがねもち)』ですね。
マキタ:つい食べちゃったりしてね。
――ありがとうございました。
今回は「80年代歌謡曲」の話は全くでてきませんでしたが、いつもにも増して奥深かったのではないでしょうか。ちなみに「うんこ」ではなく、「お金」がテーマですからね(笑)
(構成/佐保 圭)
日経トレンディ2018/12/28掲載
前回は、クイーンの『Somebody To Love』のなかで、フレディ・マーキュリーがピュアな思いを歌い上げることの中にこそ「希望」がある、とマキタ氏が熱弁した。後半は、スージー氏が名曲『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に喚起される「オヤジ世代の永遠の少年性」の中に「希望」を見いだす。
80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの対談も、いよいよ最終回を迎える
今回のテーマは、ずばり「お金」。家族の生活費や子どもの教育費、さらには自分の老後の準備など、何かと「お金」が必要になるアラフィフのオヤジ世代は、お金とどんな付き合い方をすればいいのか。折り返し地点を過ぎた残りの人生を豊かにするために、お金との付き合い方のヒントをくれる曲について、マキタ&スージーが伝授してくれた。
前半では、スージー氏が「騒動の理由は沢田研二が筋の通らないことに激怒したから」という持論を展開。それを受けて、後半では、マキタ氏が「ある程度の年齢に達した人間は、ジュリーのように生き方をシンプルにするべきではないか」という“オヤジ世代が学ぶべき人生論”を読者に問いかけた。
今回のテーマは「沢田研二に“オヤジ世代の美学”を学ぶ」。2018年10月17日、70歳記念全国ツアーのさいたまスーパーアリーナ公演を直前になって突如中止したジュリーについて、世間ではさまざまな批判が飛び交い、騒動となり、ジュリーは謝罪会見まで開くことに……。しかし、本当にそれで良かったのか? オヤジ世代の代表として、ジュリーを応援するマキタ&スージーが、軽々しく「沢田研二」を批判する風潮に物申す!
前回の「レベッカの『MOTOR DRIVE』に刺激を受けて、やりたいことをやって健康になろう!」というスージー氏の話とはうって変わって、マキタ氏は山下達郎の名曲から受け取る「祈り」や「感謝」の話を基に、情報が氾濫する現代社会の病理に鋭く切り込み、オヤジ世代が求めるべき「健全な感性」の大切さを訴えた。
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