ジャンル別番組一覧

ザ・カセットテープ・ミュージックメインビジュアルザ・カセットテープ・ミュージックメインビジュアル

Vol.18 ”人間・沢田研二”に学ぶ「筋を通す生き方」

BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。今回のテーマは「沢田研二に“オヤジ世代の美学”を学ぶ」。2018年10月17日、70歳記念全国ツアーのさいたまスーパーアリーナ公演を直前になって突如中止したジュリーについて、世間ではさまざまな批判が飛び交い、騒動となり、ジュリーは謝罪会見まで開くことに……。しかし、本当にそれで良かったのか? オヤジ世代の代表として、ジュリーを応援するマキタ&スージーが、軽々しく「沢田研二」を批判する風潮に物申す!

飛び石を飛ぶように走り続けろ!

――今回のテーマは「沢田研二に“オヤジ世代の美学”を学ぶ」です。それでは、お願いします。

スージー鈴木(以下:スージー):では、私から。沢田研二という人は、今回のドタキャン騒動も含めて「筋を通す人」というイメージがありますね。

――筋を通す?

スージー:その説明をするために、1曲……というか、シングル盤を1枚、ご紹介します。ちょっとマニアックですよ。まずはA面から。1987年にリリースされた沢田研二の『STEPPIN’ STONES』(作詞・作曲:沢田研二)です。

マキタスポーツ(以下:マキタ):ほぉ。

スージー:この曲のサビはここです。

〽 Keep on Keep on running STEPPIN’ STONES
Keep on Keep on running STEPPIN’ STONES

――かっこいいですね。

スージー:『キープ・オン・ランニング』っていうのは、「自分はロックンロールをやり続けていくぞ!」っていう意味なんですね。

マキタ:うん、うん。

スージー:「STEPPIN’ STONES」つまり「踏み石」を飛ぶように走り続けるぞっていうのが直訳なんでしょうけど、この曲がA面に入っているシングル盤のB面には『THE BASS MAN』(作詞・作曲:沢田研二)という曲が入っている。このタイトルにある「BASS MAN」っていうのは、渡辺晋さんのことなんです。

――ワタナベ……シン……さん?

ナベプロの社長へのリスペクト曲で筋を通す

スージー:1927年に東京市、今の東京都北区で生まれた渡辺晋さんは、ジャズのベーシストでしたが、1955年、ミュージシャンの地位向上を目的として、日本の芸能事務所の草分け的存在である「渡辺プロダクション」、通称「ナベプロ」を設立するんです。今でこそ、強い力を持つ大手プロダクションとか、いろいろ揶揄(やゆ)されたりもしますが、ナベプロは、日本のミュージシャンを守って、その地位を向上させた最初のプロダクションなんです。

――そうなんですか。

スージー:その創業社長だった渡辺晋さんは、1987年1月、59歳という若さで亡くなりました。ジュリーは「ザ・タイガース」のボーカルとして、1967年に十代でデビューした当時から1985年に独立するまで、渡辺プロダクションに所属していました。だから、渡辺晋さんが亡くなった半年後にリリースしたシングルのB面には、ナベプロの社長に対して、めっちゃリスペクトした曲を入れたんでしょうね。

――沢田研二が作詞した『THE BASS MAN』の内容は、「僕も歳を重ねたら、少しは近づけるかな」とか「時があなた忘れても、残る足跡、心に生きていてくれ」とか、全編、渡辺晋さんへの尊敬と感謝がつづられています。しかも、最後のリフレインでは「YOU’RE A MAN,MR.渡辺晋さん」と、名前を呼びかけてまでいます。

スージー:『STEPPIN’ STONES』と『THE BASS MAN』。「ロックンロールを自分でやっていくぞ!」っていう曲と、「師匠であるあなたをすごくリスペクトしています」っていう曲。この両方の意味合いの曲が入っているところが、沢田さんらしい「筋の通し方」だと思うんですね。それが、この1枚のシングルに表れている。

――なるほど。

スージー:「ジュリーは自由奔放」とか言いながら、昔お世話になった社長にリスペクトした歌詞を届ける。そんな沢田研二という人は、ザ・タイガース時代からソロになるに至っても、決して好き勝手なんかじゃなくて、「やらなきゃいけないことをやるんだよ」っていう感覚がある。「自分がやんなきゃ誰がやるんだ!」っていう責任感で、その頃から今に至るまで、走り続けている感じがするんです。

マキタ:ほぉ。

スージー:「筋を通す感覚」とでもいうか……だから、詮索してもしょうがないんだけど、ドタキャン騒動のときにも、たぶん、何か筋の通らないことがあったんじゃないでしょうか。

マキタ:うん、うん。

スージー:筋を通せばなんの問題もないんでしょうけど、そういう「筋の通らないこと」が身の回りに起こったら、激怒してしまうっていう……。

「才人たちの入札場」から「人間 沢田研二」へ

――亡くなった恩人に対して、アーティストとして歌でリスペクトを表現することで筋を通す……マキタさんは、そのことについてどう思われますか。

マキタ:沢田研二さんが独立して設立した会社の名前は「株式会社ココロ」じゃないですか。

スージー:はい。

マキタ:「ココロ」の漢字「心」を音読みしたら「しん」ですから、ひょっとしたら渡辺晋(しん)さんの名前から取ったんじゃないかって思うんですよ。

――あっ、ほんとだ。

マキタ:えぇ。そういう、筋を通すっていうか、律儀な人なんです。実は、僕、今から十数年前に自分のライブイベントがあったとき、沢田研二さんに出ていただきたいと思って、四谷の沢田さんのオフィスまで、直談判しにいったことがあるんですよ。

スージー:えぇっ! そうなんですか?

マキタ:ジュリーのオフィスに行ったんですよ。で、当時の社長が、僕のしたためた手紙を読んだうえで、「非常にありがたいし、愛情を感じます。ただ、うちの沢田は非常に義理堅い男で、義理に関しては徹底して守るけれども、あまり義理のない人間が横入りすることはできませんよ」と言われた。「簡単には、なかなかご一緒できないので、これを縁だと思って、また機会があったらよろしくお願いいたします」って、丁寧にさばいてもらったんです。

スージー:それは、実現したかったですよね。

マキタ:実現したかったですねぇ……でも、思いつきみたいな感じで迂闊(うかつ)に沢田研二さんに近づいて「自分のイベントに出てください」とお願いしても、なかなか、答えてもらえなかった。

スージー:はい。

マキタ:やっぱり、義理とか、筋とか、そういうものをずっと守ってきている人なんですね。

――なるほど。

マキタ:バックのミュージシャンにしても、そうです。昔は、流行のど真ん中で、常に新しいことにチャレンジしていた時代には、バックメンバーにしても、コンポーザーにしても、どんどん変わった。そういう人たちにとっての「ジュリー」は、ある種の「入札の場」だったと思うんです。

スージー:そうでしたよね。

マキタ:でも、今は違う。簡単にメンバーチェンジしてどうのみたいなことで上がっていくわけではない。「才人たちの入札の場」ではなく「人間・沢田研二」としてのアーティスト活動が始まって、今に至ってるじゃないですか。

スージー:はい。

「沢田研二さんて、やっぱり、義理とか、筋とか、そういうものをずっと守ってきている人なんですね」

筋の通らない話に疑義を唱える美学

マキタ:それからの沢田さんは、人間の義理人情といいましょうか、そういうところをすごく大事にしながら、仕事をずっとやってきている人だと思うんです。

――「ミュージシャン」と「義理堅さ」は、イメージとしてあまり重ならないように思うのですが。

マキタ:義理堅いミュージシャンは、結構、多いですよ。組織に属さないフリーランスは、人間関係を大切にする。フリーでやっている人って、組織に守られているわけじゃないから、逆に人間関係の最低ラインはしっかり守らないといけない。大抵のミュージシャンは「悲しきフリーランサー」ですから。

――沢田さんは、生まれた場所こそ鳥取県ですが、幼い頃から高校まで京都で過ごしています。今回のドタキャン騒動には「筋を通す」という性格のほかにも、沢田研二さんが京都出身であることも、なんらかの関連性が考えられるでしょうか。

スージー:京都出身と沢田さんの関連性?

――「吉田拓郎や奥田民生のような広島出身のアーティストには、ビジネス感覚が備わっている」というお話もありましたので、京都出身者にも、何か特徴があれば、と思ったのですが。

スージー:その切り口で考えると、京都人の感性には「京都=都」というか「日本の中心は京都」という考え方があります。なので、沢田さんの「筋を通さない話に対しては、自分が中心となって疑義を唱える」というところが、京都人っぽいかもしれません。

「ドタキャン騒動のときにも、たぶん、何か筋の通らないことがあったんじゃないでしょうか……」
マキタ:なるほど。

――では、マキタさんが考える「沢田研二に学ぶ“オヤジの美学”」にぴったりの歌とは、なんでしょうか。

マキタ:僕はあえてジュリーの曲の中から選ぶんじゃなくて、ジュリーの美学に最も近いんじゃないかと思える曲、オヤジの美学を貫き通したジュリーを応援するための曲として、町田義人さんの「戦士の休息」(作詞:山川啓介、作曲:大野雄二)を紹介します。

一同:おぉっ。

(つづく)

(構成/佐保 圭)
日経トレンディ2018/12/9掲載

マキタ・スージー激論!

Vol.21 残りの人生は「大人買い」と「ライブ消費」で決まる

Vol.21 残りの人生は「大人買い」と「ライブ消費」で決まる

「お金」をテーマとした対談の前半戦は、スージー氏の「アラフィフは、お金をかけずにもっと発信しよう!」というメッセージのあと、マキタ氏の「人間は単なる“うんこの通り道”」という問題提起によって、一気にヒート・アップ! 対談の後半戦では「お金」と「うんこ」の類似性に触れながら「オヤジ世代の理想の“お金の使い方”」へと議論が深化する。

Vol.20 佐野元春と森山直太朗が教えてくれた「お金」の意味

Vol.20 佐野元春と森山直太朗が教えてくれた「お金」の意味

今回のテーマは、ずばり「お金」。家族の生活費や子どもの教育費、さらには自分の老後の準備など、何かと「お金」が必要になるアラフィフのオヤジ世代は、お金とどんな付き合い方をすればいいのか。折り返し地点を過ぎた残りの人生を豊かにするために、お金との付き合い方のヒントをくれる曲について、マキタ&スージーが伝授してくれた。

Vol.19 沢田研二は宮崎駿! 黙して語らず、ジュリーの”行間”を味わう

Vol.19 沢田研二は宮崎駿! 黙して語らず、ジュリーの”行間”を味わう

前半では、スージー氏が「騒動の理由は沢田研二が筋の通らないことに激怒したから」という持論を展開。それを受けて、後半では、マキタ氏が「ある程度の年齢に達した人間は、ジュリーのように生き方をシンプルにするべきではないか」という“オヤジ世代が学ぶべき人生論”を読者に問いかけた。

Vol.17 情報の氾濫でズブズブな今、あまりにピュアな山下達郎を捧げよう

Vol.17 情報の氾濫でズブズブな今、あまりにピュアな山下達郎を捧げよう

前回の「レベッカの『MOTOR DRIVE』に刺激を受けて、やりたいことをやって健康になろう!」というスージー氏の話とはうって変わって、マキタ氏は山下達郎の名曲から受け取る「祈り」や「感謝」の話を基に、情報が氾濫する現代社会の病理に鋭く切り込み、オヤジ世代が求めるべき「健全な感性」の大切さを訴えた。

アクセスランキング

お知らせ

音楽番組(演歌・歌謡)一覧へ戻る

ページTOP

視聴方法