
BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。前回の「レベッカの『MOTOR DRIVE』に刺激を受けて、やりたいことをやって健康になろう!」というスージー氏の話とはうって変わって、マキタ氏は山下達郎の名曲から受け取る「祈り」や「感謝」の話を基に、情報が氾濫する現代社会の病理に鋭く切り込み、オヤジ世代が求めるべき「健全な感性」の大切さを訴えた。
――では、マキタさんが考える「健康にまつわる歌」は、なんでしょうか。
マキタスポーツ(以下:マキタ):私がお薦めする曲は、山下達郎が2011年にリリースしたアルバム『Ray Of Hope』に収録された「MY MORNING PRAYER」(作詞・作曲:山下達郎)です。
スージー鈴木(以下:スージー):いいですね。
マキタ:結構好きで、ぜひ朝焼けを眺めながら聴いてほしい名曲です。
スージー:はい。
マキタ:このタイトルの「PRAYER」は「祈り」という意味ですが、達郎さんの優れたアーティスト性もまた「祈り」と呼べるものに近いんじゃないかなって。
スージー:うん、うん。
マキタ:この歌は、全編通してなにか「ピュア」なものが感じられる曲だと思うんです。たとえば僕の場合、もちろん「健康」は当然気になりますが、そもそも、朝、目が覚めたときに「あ、ちゃんと起きられた!」みたいな感覚があるんですよ。
――それ、なんとなく、分かります。
マキタ:前の日の夜に「明日の朝を迎えられないんじゃないか」って思い悩むほど深刻な話じゃないんです。今年の夏はすごい台風が来ましたが、台風一過できれいな日差しが見えた朝、爽やかな目覚めに感謝する……みたいな気持ち、ありません?
一同:(静かにうなずく)
マキタ:できることなら、朝、ぱあっと気分よく目覚める方がいい。だったら、さかのぼって、前の晩は深酒とかしちゃいけないし、きちんと睡眠をとらなければいけない。我々オヤジ世代は、そういう生活のリズムのつくり方、体調の整え方をそろそろ意識したほうがいいんじゃないかなって。そんなことを思いながら、実際には、不規則な生活をしてるんですが。
一同:(笑)
マキタ:何回かに1回の割合で、すごくいい目覚めとかがあったときに、なんかちょっと「感謝します!」みたいな気持ちになる。だから、過度に体を鍛えたりしなくても、朝、ちゃんと起きられることを心がけるのが「健康」に一番いいんじゃないか。そんなことを「MY MORNING PRAYER」が教えてくれるんです。
スージー:そうですね。
マキタ:たとえば、こんな歌詞があります。
〽 ひとときでも
耳をすませ
心をゆだねたら
かすかな希望の
音を聴いておくれ
THIS IS MY PRAYER
MY MORNING PRAYER
曲としてはシンプルなんですが、爽やかさに満ち満ちている。いろんなものに感謝していることが、この歌詞にすごく表れているんです。
一同:(静かにうなずく)
マキタ:達郎さんの曲は、どれもみな古びない。どうしてそんな曲が生まれたのかって考えてみたとき、達郎さんには「音楽に対する敬虔(けいけん)な気持ち」があるからじゃないかと。
スージー:(感慨深そうに)敬虔……ですね。
マキタ:たとえば、ほかの人がつくった曲を聴くときでも、達郎さんの感じ方は「うわーっ、この曲、こんなに素晴らしい!」って、たぶん、人よりも感動の深さがすごいんだと思う。
――感動の深さ?
マキタ:そう。その曲の良さ、音楽の神髄というものを達郎さんの感受性がすごく深いところで受け取っている。それって、達郎さんの「祈り感」というか、「音楽に対する感謝の気持ち」というか、あるいは「神様の仕業だとしか思えない」っていうか……。
――「神様の仕業」というのは「神業(かみわざ)」という意味ですか?
マキタ:いや、単なるロマンチックな表現としての「神様の仕業」じゃなくて……たとえば、西欧人が数学を構築していくとき、新たに発見した美しい数式や優れた理論に対して「これは神様がつくったとしか思えない!」っていう表現を使うことがあるでしょ?
スージー:ある、ある。
マキタ:おそらく、達郎さんはそこまで深いレベルで他人の曲に触れることで、その作品に対して「敬虔な気持ち」を持っているんだと思うんです。
――ほぉ。
マキタ:そういう純粋な気持ちや感動を、もう一回、再構成して、「自分の音楽としてつくりたい!」と思うから、音響上のことまで凝るんだと思う。
スージー:はい。
マキタ:だから、達郎さんの曲って、音の1音、1音に意味があって、その響きの1つひとつに、ものすごく感謝している。
スージー:(黙って、深くうなずく)
マキタ:音楽って、数学じゃないですか。
スージー:数学ですよ、ほんとに。
マキタ:ねっ。「ドミソ」の和音だったら、ドとミとソが組み合わさったとき、なんでこんなに美しいハーモニーに聞こえるんだろうって……思ったこと、ありませんか?
スージー:ありますね。
マキタ:それって「神様の仕業としか思えない」っていうことでしょ。それに対して、理論付けや体系付けしてつくるのが西洋音楽の歴史でもあるわけです。そのやり方って、数学と同じなんですよ。
スージー:オクターブの原理もそうですね……数学というか、物理学というべきか……「オクターブは音の振動数が2倍の関係にある」というふうに。
マキタ:そう、そう。
「オクターブは音の振動数が2倍の関係にある」というふうに……
スージー:それで、実際に「ド」とそれより1オクターブ高い「ド」を同時に鳴らしたら、人間はその響きを美しいと感じる。ほんとにもう「音楽の神様、ありがとう!」という世界ですよね。
マキタ:神様のつくってくれた「音楽」というものに対して「感謝」とか「祈り」というものがある。そこの部分を抽出して、達郎さんは自分の音楽をつくっているんじゃないかって。
スージー:うん、うん。
マキタ:そういう音楽に対する態度というか、気持ちを持てるのは、いきなり大きく変わることじゃなくて、だいぶ前から、ずっと研さんを続けてきた結果というか、コツコツ努力を続けているからこそ、できることだと思う。そうじゃないと、あんなに緻密な“音楽の世界”は生み出せない。達郎さんは、1音、1音に感謝しながら「この曲は素晴らしい!」と思ってるんですよ。
スージー:感謝があればあるほど、「健康」な日々がいとおしくなるんでしょうね。
マキタ:「ただ漠然と生きるんじゃなくて、いま呼吸していることをありがたがっていますか?」って言われても、そんなこと誰もできてないじゃないですか。
――当たり前だと思ってます。
マキタ:そう、生きてることは当たり前だと思ってるじゃないですか。
スージー:病気になったとき、初めて分かる。
マキタ:だから、難しいことだけど、日々の行いというか……実際には全然できてないですよ。僕自身、できてないんだけど、そういう「命の大切さ」みたいなものにちゃんと感謝して、1日、1日を大事に、大事に生きていけたらきれいな朝が迎えられる、と。
――なるほど。
マキタ:そうやって毎日を大切に生きて、ピュアな気持ちでいられたら、達郎さんのように音楽をよりピュアに受け取れるんじゃないか。それが一番、健康であり続けることにつながるはずなんだけど……でも、僕には全然できてませんが、みなさんいかがですか?
一同:(笑)
マキタ:できてはいないけど、突きつけられている気がするんです、達郎さんの音楽に。
スージー:実際、山下達郎は60半ばになった今も、健康で、何十か所もツアーを回ってますしね。
――では、「MY MORNING PRAYER」などの山下達郎の曲に突きつけられたマキタさんは、「健康」であり続けるためにどうされているんですか。
マキタ:自分の中で、生き方をなるべくシンプルにしています。そうすることで体調が整うと、今まで自分が好きだったものとか、やり散らかしてきたものに対して、もう1回、ピュアな気持ちで取り組めるんじゃないかな。ここ数年、忙しい日々を過ごしてきて「いろんなことをやり散らかしちゃったなぁ」と思うことがあるので、まずは生き方を整えて……。
――どうやって整えるんですか?
マキタ:たとえば、ちゃんとお腹をすかしてからご飯を食べたら、おいしいでしょ?
――はい。
マキタ:オヤジ世代には、いろんなことを見散らかし、感じ散らかしてきたことが、いっぱいあるじゃないですか。そのせいで“本当のハングリーさ”みたいなものを失ってきたんじゃないかって。
――本当のハングリーさ……ですか。
マキタ:たとえばSNSなんかで「あの映画、つまんなかった」みたいな発信も簡単にできるでしょ? そういう情報を受け散らかしたらダメだと思うんです。なので、自分が求めていたものと出合えたら、早めにスマホを閉じて、余計なものを見ないよう意図的にほかの雑多な情報を遮断して、欲しい情報だけきちんと受け取って、ちゃんと感じたほうが、よりピュアに感動できるんじゃないかって。
スージー:うん、うん。
そうやって毎日を大切に生きて、ピュアな気持ちでいられたら、達郎さんのように……
マキタ:何か面白そうなことが起きるかもしれない夜に期待してだらだら起きてたら、朝が気持ちよく迎えられない。それと同じように、だらだらモノを食ってたら、お腹がぼんやりと空いた状態にしかならないから、結局、何食ったっておいしく感じないって、なるかもしんないじゃないですか。
一同:(黙ってうなずく)
マキタ:老いも若くもだけど、基本的には自分できちんと「本当にほしい情報」だけに制限してみれば、つまらないものとかって、そうそうはないと思うんですよ。
スージー:はい。
マキタ:「最近、面白いものがないんだよなぁ」なんて、無責任につくり手とか送り手のせいにする人が多いけど、「いや、違うでしょ? あなたの感受性がズブズブだから、そうとしか思えないんだよ」って。
――そんな“ズブズブの状態”に陥らないで、ピュアに受け取って感謝できる状態が健康なんですね。
マキタ:そう。だから、達郎さんの「MY MORNING PRAYER」を聴くと、「健康にならなくちゃ」って思うわけです。
――では、今回の「健康」をテーマとしたお話、まとめていただきます。まずはスージーさんから。
スージー:やりたいことをなんでも、あれもこれもとかっていうと、アラフィフの健康の話とは違ってくる。我々オヤジ世代は年を取ってきますからね。若い頃に比べればエネルギーも少ないですから、やりたいことの“数”を増やすのではなく、“質”をバージョンアップしていくのが、いいんじゃないか。
――と言いますと?
スージー:私事で恐縮ですが、「水道橋博士のメルマ旬報」の10月30日号から、なんと「小説」を書き始めました。
――10月5日に文藝春秋から『イントロの法則80’s 沢田研二から大滝詠一まで』を上梓され、音楽評論の本は何冊も出されていますが、今度は小説ですか。タイトルは?
スージー:『恋するラジオ~Turn on the radio』です。
マキタ:じゃあ、ペンネームは「スージー春樹」に変えた方がいいんじゃないですか。
スージー:今回は「評論から小説へ」というバージョンアップで、緊張感もあるわけですよ。ただ、緊張感を自分で乗り越えるためには、まあ、健康に気をつけないとっていう逆転の発想で、時代は“MOTOR DRIVE”……アラフィフのみなさんにも、健康のために何か新しいことを始めてほしいな、と。
――では、マキタさん、お願いします。
マキタ:僕の個人的なイメージですが、今の時代全体を擬人化すると、ブクブクに太ったやつが、ハンバーガーを手に持ったまま『おいしいもの、ない?』って言ってる感じでしょうか。
スージー:あぁー、分かる。
マキタ:「これ、全然、おいしくねぇんだけど」みたいなこと言っているんだけど、「ほんとは、そのハンバーガー、おいしいからね」って思うわけ。たとえば、達郎さんっていまだに1950年代半ばから1960年代初頭にアメリカではやった「ドゥワップ」の曲とか聞いて、ビンビンに感じてると思うんですよね。
スージー:うん、うん。
マキタ:そこまでのレベルはなかなかできないことかもしれないけど、これだけモノや情報がいっぱい満ちあふれている時代だから、欲しくもないものまで食い散らかさないように自ら制限して、自分が本当に欲しいと思えるモノ、よりピュアに「わっ、素晴らしい!」って思えるコトに出合える“空腹な状態”を保つことが、我々オヤジ世代の健康につながるんじゃないかって、そう思います。
――ありがとうございました。
(構成/佐保 圭)
日経トレンディ2018/12/1掲載
前回は、クイーンの『Somebody To Love』のなかで、フレディ・マーキュリーがピュアな思いを歌い上げることの中にこそ「希望」がある、とマキタ氏が熱弁した。後半は、スージー氏が名曲『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に喚起される「オヤジ世代の永遠の少年性」の中に「希望」を見いだす。
80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの対談も、いよいよ最終回を迎える
「お金」をテーマとした対談の前半戦は、スージー氏の「アラフィフは、お金をかけずにもっと発信しよう!」というメッセージのあと、マキタ氏の「人間は単なる“うんこの通り道”」という問題提起によって、一気にヒート・アップ! 対談の後半戦では「お金」と「うんこ」の類似性に触れながら「オヤジ世代の理想の“お金の使い方”」へと議論が深化する。
今回のテーマは、ずばり「お金」。家族の生活費や子どもの教育費、さらには自分の老後の準備など、何かと「お金」が必要になるアラフィフのオヤジ世代は、お金とどんな付き合い方をすればいいのか。折り返し地点を過ぎた残りの人生を豊かにするために、お金との付き合い方のヒントをくれる曲について、マキタ&スージーが伝授してくれた。
前半では、スージー氏が「騒動の理由は沢田研二が筋の通らないことに激怒したから」という持論を展開。それを受けて、後半では、マキタ氏が「ある程度の年齢に達した人間は、ジュリーのように生き方をシンプルにするべきではないか」という“オヤジ世代が学ぶべき人生論”を読者に問いかけた。
今回のテーマは「沢田研二に“オヤジ世代の美学”を学ぶ」。2018年10月17日、70歳記念全国ツアーのさいたまスーパーアリーナ公演を直前になって突如中止したジュリーについて、世間ではさまざまな批判が飛び交い、騒動となり、ジュリーは謝罪会見まで開くことに……。しかし、本当にそれで良かったのか? オヤジ世代の代表として、ジュリーを応援するマキタ&スージーが、軽々しく「沢田研二」を批判する風潮に物申す!
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