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Vol.14 奥田民生&吉田拓郎で、鉄道に乗ってさすらいの旅へ

奥田民生&吉田拓郎で、鉄道に乗ってさすらいの旅へ

BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。会社でも、家庭でも、重要な決断に迫られ、重い責任ばかり負わされるがんじがらめのR50なら、一度は「何もかも投げ出して、旅に出たいなぁ」と思ったに違いない。そんな大人の“旅心”を刺激してくれる曲は? 旅のお供に最適の歌は? そもそも、オヤジ世代が発つべき“旅”って何だ? マキタ&スージーがズバリ答えてくれた。

――今回のテーマは「旅」です。旅を感じさせる歌でもよし、旅行中に聴きたい曲でもよし。オヤジ世代の心に響く「旅」の歌ということでお願いします。

スージー鈴木(以下:スージー):どうですか?

マキタスポーツ(以下:マキタ):スージーさんから、どうぞ。

スージー:では、私から。90年代の曲なんですが、今回はストレートにいきます。1998年発売の奥田民生の『さすらい』(作詞・作曲:奥田民生)。

マキタ:いいですね。

スージー:もう、これだろうと。70年代は「旅をしよう」っていうメッセージの歌がすごくあったんですけど、80年代は演歌は別ですが、ロックやポップスでは途切れてしまったような気がします。そして、90年代の『さすらい』という曲で、奥田民生がストレートな「旅ソング」を復活させた。

――はい。

自由奔放にさすらう奥田民生はオヤジ世代の鏡

スージー:歌詞のポイントは、一番最後のフレーズです。

〽 さすらいもしないで このまま死なねえぞ
さすらおう

マキタ:あぁ、言ってた、言ってた。(と言ってから、やおら歌いだす)さすらぁいぃも、しないでぇー。あー、あー、あー。

マキタ&スージー:(ユニゾンで)このまぁま、死なねぇぞぉー!

スージー:僕は1987年にデビューして1993年に解散(※2009年に再結成)したバンド「UNICORN(ユニコーン)」のファンだったので、バンドのボーカルの奥田民生のソロ活動には「若干、距離を置こう」と胸に誓ってたんですよ。

――ほぉ。

スージー:でも、1994年に『愛のために』(作詞・作曲:奥田民生)を出して、1995年が『息子』(作詞・作曲:奥田民生)、1996年には『イージュー★ライダー』(作詞・作曲:奥田民生)、そして、ソロでの8枚目のシングルとなる『さすらい』を出した。

マキタ:たまんなかったね。

スージー:そのころ、作務衣みたいな衣装を着て、頭に手ぬぐい巻いて、1998年にギター1本での弾き語りのライブ「ひとり股旅」ツアーをやりました。ツアーの名前自体が「旅」なんですよ。

マキタ:ねぇ。

スージー:「仕事がひと息ついたら、旅行でもしよう」っていう気持ちは、みんなあるんですけど、なかなか実現しない。

マキタ:しない、しない!

スージー:日本のサラリーマンの場合、休んでも1週間くらいですよ。でも、ユニコーンが解散してからソロ活動を始めるまでのおよそ1年間、民生は釣りばっかりしてた(笑)。

――あのころの奥田民生さんは、まさに「さすらってる」って感じでしたね。

スージー:自由奔放にさすらってる。我々オヤジ世代の鏡っていうか、「ああいうふうになりたいな」と思いながら、民生の歌を聴いてました。そのあと、ソロ10周年にあたる2004年には、広島市民球場でコンサート「ひとり股旅スペシャル@広島市民球場」をギター1本でやりきった。

――そうでした。

奥田民生&吉田拓郎で、鉄道に乗ってさすらいの旅へ

奥田民生のソロ活動には「若干、距離を置こう」と胸に誓ってたんですよ。でも……

「さすらい」初心者には「鉄旅」がおすすめ

マキタ:まあ、なかなかね、民生さんのようにはうまくはいかないんだろうけど。あの人、なんかのらりくらりしているようで、ちゃんと芯がある。だって、ソニーの顧問にまでなった人ですよ。

スージー:えっ、そうなんですか?

――奥田民生は、2009年に所属事務所のSMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)の顧問、2012年には同社の名誉顧問に就任して、2015年に退任しましたよね。

マキタ:そうです。

スージー:そういえば、山下達郎も所属会社の役員になってなかった?

――山下達郎は、1982年に設立された「アルファ・ムーン」、1990年にワーナー・ミュージック・グループ傘下に入ってほかの会社と合併して名前を変えた「エム・エム・ジー(MMG) 」、1993年にMMGから社名変更した「イーストウエスト・ジャパン」で1997年ごろまで、役員を務めていたようです。

スージー:言うなれば、奥田民生は「顧問ロッカー」だった(笑)。

マキタ:そして、山下達郎は「役員ロッカー」ですよ。かつての奥田民生さんは、反体制側の「股旅」感というか、傍流の存在みたいなイメージだったけど、今はど真ん中にいる。

スージー:かつては“日本で最も作務衣が似合うミュージシャン”とか、“手ぬぐいを頭に巻くのが似合うミュージシャン”っていうイメージでした。お笑い界では松本人志さん、音楽界では奥田民生ってところでしょうか。

マキタ:あの二人は響き合ってますよね。1996年から1997年にかけて、フジテレビ系列で放送されていた『一人ごっつ』で、松本人志さんがやっているスタイルとかをトレースしたんじゃないかな。あの二人、別番組でも合流してましたからね。

スージー:うんうん。

――ところで、「奥田民生の『さすらい』を聴いて、オヤジ世代もさすらおう!」っていうスージーさんのメッセージは心に響きましたが、でも、いざ、実践してみようと思ったら、かなり難しいように思うのですが。

スージー:難しい?

――「ヨーロッパを回って美術館巡りをしよう」とか、「アジアでおいしい地元料理を堪能しよう」とか、そういう具体的な場所と目的のある旅行なら分かるんですが、目指す場所も目的もなく、ただ「さすらおう!」って言われても……。

スージー:困るでしょうね。

――困ります。なので、何か「さすらい旅」の実例を挙げてもらえると助かるのですが。

スージー:じゃあ、例えば……これ、あんまり女性には理解されないんですが、もし、3日とか4日とか、休みが取れたら電車だけ乗り継いでいく旅行をすればいいんじゃないでしょうか。

マキタ:ほぉお。

スージー:僕の個人的な「さすらい旅」の話になりますが、例えば、休憩とかしない、温泉とかもいかない、ずうーっと、ただただ、JRの特急に乗っているっていう。

一同
:(沈黙)

スージー:これ、何かというと、移動することが目的なんですよ。だから「さすらい」なんです。温泉行きたいとか、観光地に行きたいとか、目的地がある旅行じゃなくて、動いていること自体がうれしいんです。

――ほぉお。

スージー:ただ、3日でいいですね、さすらうのは(笑)。

――実際にスージーさんは、そういうふうにさすらったりするんですか?

スージー:最近はやってないですが、何年かに1回、鉄旅やってます。

――「鉄旅」って……「鉄道に乗ることをメインに楽しむ旅」でしょうか?

スージー:そうです。

マキタ:いぃなぁ……俺、今、すごぉーく、やりたぁい!!

スージー:例えば、数年前にやった鉄旅は、東京から新幹線で新潟県の長岡駅まで行って、そこから富山県の富山駅、石川県の金沢駅に行って、1泊目は福井県の敦賀駅の近くに泊まる。

マキタ:あぁー、いぃですねぇ。

スージー:2日目は、京都府の日本海に面した天橋立駅を越えて、山陰線……こんな私のさすらい話でもいいですか?

――かまいません。聞きたいです。

スージー:山陰線は鉄道での移動に時間がかかる。それがまたいい。余部鉄橋を渡って、島根県の益田駅、そこからぐぐっと戻ってきて、山口県の新山口駅まで降りて、そこから東京まで帰ってきた……そういう鉄旅で、「ただ動いてるだけ」っていうのを楽しみたかったんです。

――ほぉお。

スージー:さすらい欲求というか、さすらい衝動ですね、おっさんの。

吉田拓郎のDNAを継承する奥田民生の「旅歌」

――そうやって「鉄旅」でさすらっているときに合う曲って、ありますか?

スージー:難しいですね。

――さっき話された鉄旅では、どんな曲を聴いてました?

スージー:あぁ……そんときはね、北陸から山陰でしたから、僕は吉田拓郎を聴いていましたね。

マキタ:それこそ『落陽』(1973年発表、ライブアルバムに収録。作詞:岡本おさみ、作曲:吉田拓郎)とか?

スージー:そう、『落陽』とか。

〽 しぼったばかりの夕陽の赤が
水平線からもれている
苫小牧発・仙台行きフェリー
あのじいさんときたら
わざわざ見送ってくれたよ

マキタ:いぃねぇ。

スージー:吉田拓郎には旅の歌が多い。さっきも言いましたが、70年代、若者たちの旅行欲求はすごく高くて、あのとき吉田拓郎のこの歌にそそのかされて、苫小牧発仙台行きフェリーに乗った人間はかなり多いと思うんですよ。

マキタ:(無言でうなずく)

スージー:襟裳岬に行った人間も多いと思うんですがね。

マキタ:多いだろうね。

――1974年に森進一が歌って大ヒットした『襟裳岬』も、作詞が岡本まさみ、作曲が吉田拓郎の作品ですよね。

スージー:何回か前の対談で話した「山下達郎=落合博満」論とか「沢田研二=江夏豊」論みたいに、この「吉田拓郎=奥田民生」にも、奇妙な符合があるんですよね。

――どんな符号ですか?

スージー:まず、拓郎と民生は同じ高校の出身。

――そうなんですか?

スージー:広島県立広島皆実高等学校です。

マキタ:顔も相似形ですよね。

スージー:あっ、似てますよね。発声も少し似てません? ちょっとダミ声っぽいっていうか、澄んではいない声で、飾らず、ストレートに歌うっていう。

――似てますね。

スージー:これだけの逸材を二人も輩出しているので、私は皆実高校を「広島ロック界のPL学園」って呼んでます。

一同
:(爆笑)

奥田民生&吉田拓郎で、鉄道に乗ってさすらいの旅へ

あの人(奥田民生)、なんかのらりくらりしているようで、ちゃんと芯がある……

スージー:なので、これは邪推かもしれませんが、奥田民生が「さすらい」的な曲を歌うのは、吉田拓郎のDNAが影響してるんじゃないかって。

マキタ:それって、あるんじゃないかなぁ……。

スージー:吉田拓郎は二面性があって、非常にポップで都会的な曲を作って、ビートルズの洋楽性を日本の音楽界にもたらした人間でもありながら、日本の土着性っていうんでしょうか、そういう曲もたくさん歌っている。

マキタ:それって「個人と組織」みたいな符号でもつながってこないですか?

スージー:はい、はい。

マキタ:かつて、民生さんはSMAの顧問だった。吉田拓郎は「フォーライフ・レコード」の社長になっている。

――フォーライフ・レコードは、1975年、吉田拓郎、井上陽水、泉谷しげる、小室等らが設立したレコード会社ですね。最初の社長は小室等で、1977年、吉田拓郎が2代目の社長に就任した。

スージー:ですね。

マキタ:そういう意味では、完全に……。

スージー:ビジネスの先端ですね。

ビジネス嗅覚の鋭い“広島ロックスター”たち

マキタ:拓郎さんは在野から出て来て、ビジネスのど真ん中、芸能界のど真ん中に行った。

スージー:はい。

マキタ:それで、自分でレコード会社を作って、社長になっちゃった。

――最初の社長は小室等ですが、フォーライフ・レコードの設立を牽引したのは吉田拓郎と言われていますからね。

スージー:そこに、もう1人、広島出身のミュージシャンを加えていいですか。

マキタ:えぇ。

スージー:矢沢永吉。

マキタ:来た!

スージー:広島出身の人は、さすらう個性もありながらビジネスへの嗅覚も強い。

一同:おぉ!

マキタ:すごいですよね。

――この連載も回を重ねてきましたが、初めて“日経”っぽい話になってきました。

マキタ:そぉですよ。広島から出てきて横浜という“リバプール”に降り立って「これから一旗揚げてやるぞ!」ってね。

スージー:70年の日本の県別ロックの歴史をたどってみると、広島ロックっていうのは人口の割には非常に成功者が多くて、逆に大阪、名古屋は、あまり多くない。

マキタ:そうね。

スージー:もし、県別の“ロックンロール高校野球”があって、強豪県を挙げるとしたら「広島」の次は「福岡」じゃないですかね。

マキタ:うん、うん。

スージー:今挙げたメンバー以外にも、広島県出身のミュージシャンとしては、西城秀樹、原田真二、世良公則、吉川晃司……嗅覚で嗅ぎ取ったビジネス・チャンスを恥ずかしがらず、臆面もなく遂行するっていう。

――ほぉ。

スージー:奥田民生の顧問の話は知らなかったんですけど、もしかしたら、そういう広島の県民性みたいなものが作用したのかもしれませんね。

――ほかの県民性とは、何か違った特徴があるのでしょうか?

スージー:例えば関西出身の場合、「音楽でビジネスすることはカッコ悪い」とか、「俺らは東京もんじゃないから」とか、そういう意識が強いので、東京的なビジネスの成功というものに対して、ちょっと距離を置くというか、冷ややかに見ちゃう感じがありますね。

――なるほど。

スージー:大阪と同じで、名古屋も割と打率が低い。名古屋出身の70年代のミュージシャンって、誰がいるかなって思って考えたんですけど、「センチメンタル・シティ・ロマンス」くらいしか思い出せなかった。

マキタ:浅井健一がいますよ。

一同:おぉっ。

マキタ:もちろん名古屋からもミュージシャンはたくさん出ていますが、確かに、商売の匂いはしませんね……つボイノリオとか。

一同:(オヤジ世代のみ爆笑)

――では、つボイノリオから話が危険な方向に行く前に、ここで話題を変えまして、今度はマキタさんの好きな「旅」の歌をお願いします。

マキタ:べたですけど、GODIEGO(ゴダイゴ)の1979年のヒット曲、『銀河鉄道999』(作詞:奈良橋陽子/山川啓介、作曲:タケカワユキヒデ)です。

(つづく)

(構成/佐保 圭)
日経トレンディ2018/11/10掲載

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