
BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。前回、スージー氏がRCサクセションの曲を例に「逃げた先に『自由』があり、その向こうに『すべてはALRIGHT』な世界がある“逃避”」を勧めたことを受けて、マキタ氏は「オヤジ世代だからこそ、甘い誘惑から逃げろ!」という独自の論を展開した。
マキタスポーツ(以下:マキタ):僕は至ってシンプルに、「逃避」の英訳「escape」のカタカナ表記がタイトルになっている稲垣潤一さんの名曲を紹介したいと思います。1983年にリリースされたシングル曲『エスケイプ』(作詞・編曲:井上鑑、作曲:筒美京平)です。
――なるほど。
マキタ:当時の僕から見たら、稲垣さんは“シティボーイ”として、すごく光ってました。
スージー鈴木(以下:スージー):うん、うん。
――特に「エスケイプ」のどの歌詞に“逃避”を感じられるんですか?
マキタ:この曲で「逃避」を語るとき、キーワードになるのは、歌詞の中に出てくる「甘い裏切り」ですね。
〽 ライトにきらめく あなたの横顔
苦しいほど 美しすぎて
ただの友だちを 恋人に変える
っていう意味深な歌詞から始まって、
〽 いまは悔やみはしない
甘い裏切りを 今夜はエスケイプ
と「甘い裏切り」が出てくる。
――はい。
マキタ:そのあと、こう続きます。
〽 だけど 今夜だけは
セピアのシーツにつつまれて
愛と罪の間に
ひらりと身を投げ あなたとエスケイプ
つまり「甘い裏切り」というのは「甘い誘惑」にのって、“真面目な日常”から“愛と罪の間の裏切り行為”にエスケイプすること。バブル時代、この「甘い誘惑」は、誰もが望むファンタジーでした。でも、今の時代に生きるオヤジ世代は、そういう「甘い誘惑」からこそエスケイプしなければいけないんです。
スージー:なるほどね。
マキタ:この「甘い誘惑」にスポットを当ててみると、オヤジ世代が若かったころと、今の時代がどれだけ変わったか、分かると思います。アラフィフになっても、いろんな「甘い誘惑」がありますよね。たとえば、不倫もしたいでしょう、きっと。
スージー:甘い誘惑だ。
マキタ:浮気もしたいでしょう。
スージー:甘い誘惑だ。
マキタ:あとは、魚卵も食べたいでしょう。
スージー:あまぁーい!
マキタ:糖質のことを気にしないで、飲み食いしたいでしょう……っていうのはあるけれど、でも、そういう「甘い誘惑」から逃れるっていうことが大事なんですよ。
――なるほど。
マキタ:ご自身の人生ですから、アラフィフのみなさんは、大切にご自分の人生を生きてくださいって。
――結論は、甘くないですね。
マキタ:逃げるっていう話でいうと、大きな意味も含んで、そう思わないですか? 我々オヤジ世代は、背負うもの、背負うもの、いろんなものを抱えて、いろんな甘い誘惑を断ち切って、今の自分の人生をつくっているわけじゃないですか。
スージー:さすがだ。
――でも、確か『ザ・カセットテープ・ミュージック』の番組の中で、長渕剛さんの歌の中にある「しゃぶりつく!」っていう歌詞の情熱の激しさにリスペクトされていましたよね。
マキタ:1991年の長渕剛のアルバム『JAPAN』に収録された『I love you』(作詞・作曲:長渕剛)の話ね。
〽 そんな事より 俺はお前をベッドに引きずり込み
素っ裸の お前の胸に しゃぶりつく
I love you そうだろう
I love you きっとそうだよね
――その歌詞みたいに、ピュアな情動の赴くまま、エネルギッシュに行動することは、もうアラフィフにはできないということでしょうか。
マキタ:やれます?
――えっ……。
アラフィフのみなさんは、大切にご自分の人生を生きてください
マキタ:相手をベッドに引きずり込んで「ぐだぐだ言ってんじゃねぇ。しゃぶりつくぞ!」って、そんなファンタジー、今の時代にあると思いますか?
スージー:引っ張り込むだけで、相当の腕力が必要ですしね。
マキタ:そんなこと、できるわけないじゃないですか。
スージー:ありえないですよね。
――そう言われれば、そうですけど……。
マキタ:昨今の芸能人だって、そうですよ。昔だったら、たとえばですよ、飲む、打つ、買うで破天荒に生きた煩悩の塊みたいな、欲望の体現者みたいなものがウケたかもしれないですけど、今の時代では、そんなの全然“等身大”じゃない。
――はい。
マキタ:芸能人だって等身大じゃなくちゃいけない時代なんです。そのなかで面白さとか、エンタメとかを供給していくのが、現代の芸能人じゃないですか。
――なるほど。
マキタ:だからこそ、いろんな欲望を断ち切って、みんなが傷つかないエンターテインメントを作り上げているわけじゃないですか。
――そうですね。
マキタ:よくも悪くも、今の芸人は、結構、ストイックで真面目ですよ。
――確かに、最近は芸人さんのトークでも「コンプライアンス」という言葉がよく聞かれるようになりました。
マキタ:甘い誘惑がきても「うぅん、ほんとはそっちに行きたいけど、行かない!」って踏み止まっている。甘い誘惑のほうに「うわぁー」って突っ走ったら「うぉー!」って拍手してくれる世の中ですか? 拍手なんてしてくれないじゃないですか。
スージー:しないですね。
マキタ:「甘い誘惑に逃げたら終わり」の時代なんですよ。むしろ、みんな、甘い誘惑の方から目を背けて「真面目な方に行く」っていう“逃げ方”をしているから、この厳しい時代を生き抜けてるんじゃないですか。
――真面目な方に逃げる……確かに、そういう時代かもしれませんね。
一同:(ひとときの沈黙)
引っ張り込むだけで、相当の腕力が必要ですしね
――では、最後に、読者のみなさんに一言ずつ、お願いします。まずはスージーさんから。
スージー:逃げてもそんなにいいことないと思うんだけど、無理することもないだろう、と。だから『ベイビー!逃げるんだ。』となる。ただ、単なる「逃避」じゃなくって、その向こうに『自由』があり、さらにその先に行けば『すべてはALRIGHT』になる世界があるっていうのを、もう一回、定年後の人生設計も含めて考えてみてもいいんじゃないかと。
――はい。
スージー:さらに、甘い誘惑を断ち切った向こう側には、前回の「孤独」がテーマのときに話したように……(突然、声をひそめて、ささやくように)“白い陶磁器”がある。
一同:(爆笑)
マキタ:(ニヤリと笑って)“白い掃除機”がね。
――では、マキタさん、お願いします。
マキタ:「逃避」っていうと、単なるダジャレじゃないですけど、「頭皮」の髪の毛とかも、薄くなってきますよね。
一同:(忍び笑い)
スージー:先輩としてね。
マキタ:そう、その先輩として僕は言いたい。「頭皮からの逃避」とはいみじくも言ったもので、今の時代は「A:カツラ」「B:スキンヘッド」という「逃避」の選択肢から解決策を選ぶのかもしれませんが、僕みたいに、何もせず、あるがままに受け止めるという道もある。
スージー:何もせず、ただ眺めるだけ……。
マキタ:そう、眺めては飽きもせず、かといって触れもせず……この僕の頭が“白い掃除機”みたいなもんですよ。
一同:(爆笑)
マキタ:あくまでも個人的な意見ですが、僕はね、スキンヘッドにしているのは、逃げてるだけだと思っている。「ハゲじゃなくてスキンヘッドだよ」っていうところに逃げちゃってる人を見るとね、その道の先輩として「あぁ、スキンね」って……僕は思ってます。
一同:(無言)
マキタ:僕は、頭皮から逃避するんじゃなくて、頭皮を侘びてるんです。これからの時代、こういう“侘び寂び”を愛でる文化っていうのが、必要だと思っています。
――ありがとうございました。
(構成/佐保 圭)
日経トレンディ2018/11/3掲載
前回は、クイーンの『Somebody To Love』のなかで、フレディ・マーキュリーがピュアな思いを歌い上げることの中にこそ「希望」がある、とマキタ氏が熱弁した。後半は、スージー氏が名曲『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に喚起される「オヤジ世代の永遠の少年性」の中に「希望」を見いだす。
80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの対談も、いよいよ最終回を迎える
「お金」をテーマとした対談の前半戦は、スージー氏の「アラフィフは、お金をかけずにもっと発信しよう!」というメッセージのあと、マキタ氏の「人間は単なる“うんこの通り道”」という問題提起によって、一気にヒート・アップ! 対談の後半戦では「お金」と「うんこ」の類似性に触れながら「オヤジ世代の理想の“お金の使い方”」へと議論が深化する。
今回のテーマは、ずばり「お金」。家族の生活費や子どもの教育費、さらには自分の老後の準備など、何かと「お金」が必要になるアラフィフのオヤジ世代は、お金とどんな付き合い方をすればいいのか。折り返し地点を過ぎた残りの人生を豊かにするために、お金との付き合い方のヒントをくれる曲について、マキタ&スージーが伝授してくれた。
前半では、スージー氏が「騒動の理由は沢田研二が筋の通らないことに激怒したから」という持論を展開。それを受けて、後半では、マキタ氏が「ある程度の年齢に達した人間は、ジュリーのように生き方をシンプルにするべきではないか」という“オヤジ世代が学ぶべき人生論”を読者に問いかけた。
今回のテーマは「沢田研二に“オヤジ世代の美学”を学ぶ」。2018年10月17日、70歳記念全国ツアーのさいたまスーパーアリーナ公演を直前になって突如中止したジュリーについて、世間ではさまざまな批判が飛び交い、騒動となり、ジュリーは謝罪会見まで開くことに……。しかし、本当にそれで良かったのか? オヤジ世代の代表として、ジュリーを応援するマキタ&スージーが、軽々しく「沢田研二」を批判する風潮に物申す!
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