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2018年10月27日掲載 ベイビー!逃げるんだ…忌野清志郎が教えてくれた自由への逃避

ベイビー!逃げるんだ...忌野清志郎が教えてくれた自由への逃避

日経トレンディ2018/10/27掲載
BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。会社での重責、家族の生活費や子どもの教育費、自らの健康管理など、さまざまなものを背負わされ、日々戦い続けるアラフィフなら、誰もが一度は……いや、何度も「もう無理!」と思っただろう。そんなとき、責任あるオヤジ世代はどうすればいいのか。RCサクセションの忌野清志郎は『ベイビー!逃げるんだ。』と叫んだ。

RCの『ベイビー!逃げるんだ。』はビートルズの『Help!』

――今回のテーマは「逃避」ということで、良きにつけ悪しきにつけ、とにかく今の日常、人生から「逃げちゃいたい!」って思っているオヤジ世代に贈る名曲を紹介していただきたいのですが。

スージー鈴木(以下:スージー):では、私からいきましょうか。

マキタスポーツ(以下:マキタ):はい。

スージー:これは、もうストレートに、1983年にリリースされたRCサクセションの『ベイビー!逃げるんだ。』(作詞:忌野清志郎、作曲:仲井戸麗市)。

マキタ:出たぁ!

スージー:考えてみると、「逃避」をテーマにしたロックンロールはなかなか珍しいんじゃないかと。

マキタ:そうですね。

スージー:歌詞の一番の聴かせどころは、ここ。

〽 ベイビー逃げるんだ
 ベイビー逃げるんだ
 ベイビー逃げるんだ、げるんだ

マキタ:うん、うん。

スージー:深読みすると、1982年、当時イエロー・マジック・オーケストラのメンバーだった坂本龍一と忌野清志郎が組んで発表した『い・け・な・いルージュマジック』(作詞・作曲:忌野清志郎+坂本龍一)が資生堂82年春のキャンペーンソングとしてヒットしたことで、翌83年にはRCにすごいバブルが訪れて、忌野清志郎が時代の寵児みたいになった。ということは、たとえるならRCの『ベイビー!逃げるんだ。』は、ビートルズ(The Beatles)の『Help!』(作詞・作曲、J.Lennon/P.McCartney)に似た曲じゃないかと。

マキタ:なるほど。

“自由”に向かって“ALRIGHT”になる逃避

スージー:僕は、2015年にRCサクセション45周年を記念してリリースされたベストアルバム『KING OF BEST』が好きなんですが、このアルバムの13曲目に『ベイビー!逃げるんだ。』が入っていて、その次に収録されている曲が『自由』(作詞・作曲:忌野清志郎)なんですね。

マキタ:はい。

スージー:その歌詞が、

〽 だって俺は自由、自由、自由
 短いこの人生で
 いちばん大事なもの
 それは自由、自由、自由

マキタ:うん、うん。

スージー:それで、『ベイビー!逃げるんだ。』『自由』ときて、次の曲が『すべてはALRIGHT (YA BABY)』(作詞:忌野清志郎、作曲:春日博文)。

マキタ:ほぉ。

スージー:だから、逃避するんだけれども、単なる「逃げ」じゃなくて、その先で「自由」や「ALRIGHT」につながるような「逃避」ならいいなぁってことを、忌野清志郎は言ってるんじゃないかと。

マキタ:なるほど。

スージー:前回の「孤独」のときの話と同じですね。孤独なんだけれど、その孤独をちゃんと引き受けて、夢中にやり続けなきゃいけない、新たな世界に旅立たなきゃいけない。こっちも単なる逃避じゃなくて、自由に向かって行かなきゃいけないっていう。

マキタ:清志郎さんって、割とそういうの、ほんとに好きなんだろうね。1996年の忌野清志郎と篠原涼子のデュエット曲『パーティをぬけだそう!』(作詞・作曲:忌野清志郎)でも、ほんとにそういう「逃げる」っていう……。

スージー:「逃避ソング」ね。

マキタ:そう、「逃避ソング」。なんかあの人の生き方って、真面目な方向に行こうとするロックに対して、お化粧して、いい意味で道化の方に逃げたりして……天邪鬼じゃないですか、あの人って。

スージー:はい。

マキタ:世の中が経済に転がりすぎたときも、原発のことに関してとかも、すごく警鐘を鳴らすのが早かった。我々も価値相対主義が行きすぎた時代を経験してる。そんな時代の中で、結構シリアスに、急に「戦争反対!」みたいなことを言い出して、「おぉ、どうした? 清志郎」とかって思ったわけですよ。

傾斜する世の中と逆方向に逃げる清志郎

スージー:いま、一部のファンに神格化された「愛と平和の忌野清志郎」みたいなのは、ちょっと行きすぎてる感じはします。

マキタ:うん、うん。

スージー:相対化っていうか、天邪鬼なので「みんなが戦争の歌を歌わないから俺は歌うんだ」って。

マキタ:(深くうなずく)

スージー:みんなが「前向きに行こう!」って言うから、俺は『ベイビー!逃げるんだ。』って歌うんだって、そういう相対主義かもしれませんね。

マキタ:清志郎って、割とトリックスター的で、当時の僕はいつも「あの人、なんで化粧して『ベイベー!』なんて言い出したんだろう?」って不思議に思ってたんですね。でも、今考えると、世の中がある方向に傾斜していくときに、あの人のバランスのとり方で、逆方向に逃げるっていうか、そういうものを演じてみせるというか……そういうことを意図的にやってきてる感じがするんですよね。

ベイビー!逃げるんだ...忌野清志郎が教えてくれた自由への逃避

――ちなみに、お二人が個人的に「この歌に逃げていた」という曲はなんですか?

マキタ:僕はね、東京に出てきて、ちょっと引きこもりになっちゃったときに、逃げ場になってたのはSIONの歌ですね。

スージー:SIONのどの曲ですか?

マキタ:1986年のシングル『俺の声』(作詞:SION/OKAMOTO、作曲:SION)。なんていうのかな、あのうらぶれた感じというか……(とつぶやいてから、真剣に歌い出す)。

〽 俺は王様だと思ってた
 俺の声で誰でも踊ると思ってた
 だがしかし 俺の叫ぶ声は
 ピンボールさ はねてるだけ

一同:(黙って聴き入る)

マキタ:(つぶやくように)癒やされたぁ。

スージー:(深くうなずく)

マキタ:(絞り出すように)逃してくれたぁ……みたいな。

上京直後の孤独はSIONが癒やしてくれた

スージー:SIONで言えばね、1987年のセカンド・アルバム『春夏秋冬』に収録された『12月』(作詞・作曲:SION)っていう曲があって、

〽 そして俺ときたらいつもこのごろになると
 なにかやり残したよなやわらかな後悔をする

この「やわらかな後悔」っていう言葉が……。

マキタ:分かるなぁ。

――それ、スージーさんが何から逃げたかったころですか。

スージー:えぇと、大学に来て1年目、逃げようと思ったころですね。

マキタ:はっはっは!

スージー:やっぱり「東京」っていうか、「上京」って大きいですね。

マキタ:うん、うん。

スージー:大学に入学して、すぐでしたね。

マキタ:だって、スージーさんもそうでしょうけど、俺が上京したころって完全にバブルだったけど、当時はやっていた肩パットの入ったスーツで街を歩くことなんて、いきなりはできなかったですよ。それこそ、そのとき、SIONに逃げましたよ。

一同:(地方出身で上京経験者のみ、しみじみとうなずく)

マキタ:SIONとか……マーシー(ザ・ブルーハーツのギターの真島昌利のニックネーム)ですかね。

一同:ほぉお。

マキタ:ブルーハーツの『チェインギャング』(作詞・作曲:真島昌利)とか……。

――そこまでで結構です! ブルーハーツの話になると、また目玉が黒くなってしまいそうなので話題を変えます。今度は、マキタさんの“逃避ソング”を紹介してください。

マキタ:僕は至ってシンプルに、「逃避」の英訳「escape」のカタカナ表記がタイトルになっている稲垣潤一さんの名曲を紹介したいと思います。1983年にリリースされたシングル曲『エスケイプ』(作詞・編曲:井上鑑、作曲:筒美京平)です。

――なるほど。

(つづく)

(構成/佐保 圭)

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