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2018年10月13日掲載 オヤジたち、孤独の向こうの”新たな世界”に旅立とう

オヤジたち、孤独の向こうの

日経トレンディ2018/10/13掲載
BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。今回のテーマは「孤独に負けない歌」。部下との世代間格差で、日々、寂しさをかみしめるアラフィフには、迫り来る定年の向こう側で新たな「孤独」が待ち受けている……そんな過酷な今を生きるオヤジたちに、マキタ氏とスージー氏が「孤独の克服法」を伝授する!

80年代の青春を描くオヤジ世代の胸キュン映画

――今回のテーマは「孤独に負けない歌」ということで、我々アラフィフの孤独感を癒してくれるような、あるいは孤独感に打ち克つのに役に立つような歌をご紹介ください。

マキタスポーツ(以下:マキタ):僕からいかせてもらっていいですか?

スージー鈴木(以下:スージー):どうぞ。

マキタ:僕が今回紹介したいのは、『Drive It Like You Stole it』(作詞・作曲:Gary Clark)です。

一同:(ぽかんとする)

――すみません。この連載で初めて知らない曲が出てきたのですが……。

マキタ:この曲は『シング・ストリート 未来へのうた(原題:Sing Street)』(脚本・制作・監督:ジョン・カーニー)という青春モノの音楽映画の挿入歌なんです。

スージー:うわあーっ! 『シング・ストリート』、大好き!!

マキタ:まあ、一部、すごく熱狂的に支持された映画なんですけど。

スージー:抜群でしたねぇ。

マキタ:2016年に公開されたんですが、その舞台がもう僕らオヤジ世代の青春期そのもの。80年代が舞台で、映画の中で流れる音楽も当時のヒット曲ばかりっていうアイルランド映画なんです。

スージー:そうでしたね。

マキタ:ストーリーとしては、ティーンエイジャーの男の子がいて、お父さんの事業の都合でパブリック・スクールに転校する。で、夫婦仲がよろしくなくて、両親が離婚するとか、そういう状況の中で自分の生活も変わっていく。新しく転校した学校は勝手が違って、すごい体罰を受けたり、イジメに遭ったりする中で、好きな音楽で仲間を集ってバンドを組む。

スージー:はい。

マキタ:そこに気になる女の子が登場して、彼女が年上のいけすかない不良な兄ちゃんと付き合ってる。その女の子も不良なので、主人公の男の子には「自分はいけてない」っていう気持ちがあるんですけど、バンドを始めて、どんどん強くなっていくっていう。

スージー:そうそう。

マキタ:この映画を知ってる人は少ないと思うのですが、こんなにいい映画を知らないまま、がむしゃらに働いているアラフィフは孤独だなぁって、そう思うんですね。

――そうきましたか。

マキタ:日々、新しく、面白いものが発信されているのに、知らないなんてもったいない。とにかく、一度、この映画を観てください。そして、この曲を聴いてください、と。『Drive It Like You Stole it』っていう曲のタイトルは「自分の人生なんだから、自分でハンドルを切って、自分で運転していこうよ!」っていう意味なんですね。

スージー:そうそう。

マキタ:これを僕が好きな長渕剛さん風に言うならば、(長渕剛の口調で)「おまえが舵(かじ)を取れぃ!」ってことです。

――なるほど。

巻き戻せない青春時代への憧憬と孤独

マキタ:舵を切った先の話がテーマになっている映画でもあるんです。最終的に、思い切って舵を切って自分の人生を歩む。好きな女の子と一緒に、イングランドを目指すんです。

スージー:映画のエンディングでね。

マキタ:その後どういうふうになるかは分からない。当時は80年代ですから、デュラン・デュラン(Duran Duran)とか、はやってるわけですよ。アイルランドは歴史的にも、紛争などいろいろあって、イングランドとの微妙な距離感があった。主人公たちにとって、アイルランドから海を渡った向こう側には、自分が大好きなデュラン・デュランとか、素敵なカルチャーがそこにある……ということで、夢しかない。

スージー:はい。

マキタ:夢と希望しかない。

スージー:そう。

マキタ:まぁ、現実を何も知らない十代のちゃらんぽらんな夢ですよ。実際、向こうに着いたってろくなことがあるかどうか分かんない。分かんないけど、その馬力感っていうのは、何も知らない世間知らずでしか発動できないものじゃないですか。

スージー:(無言で深くうなずく)

マキタ:我々オヤジ世代は、一生懸命生きて、歳をとって、今では自分の生活があり、家族も抱えて暮らしている。家族のためを思って高い生命保険に入り、家族のためを思って減塩しょうゆを使う。

一同:(笑)

マキタ:プリン体カットにする、低糖質にする、何かのために、何かのために……みたいな感じで、常に「これから来る未来」を予測した動き方しかしていないのが、アラフィフの今の自分じゃないですか。

スージー:うん、うん。

マキタ:それに比べれば、視野が狭くて、世間知らずで、ちゃらんぽらんだけど、すごい行動力で熱くなった時代っていうのが、かつては自分にもあった。

スージー:そうね。

マキタ:すごく感動的な映画でもあったんですけど、この『Drive It Like You Stole it』っていう曲を聴いたときに、なんか、得も言われぬ……なんて言うのかな……決して巻き戻せない青春の日々への憧憬というか、あぁ、もうあそこには戻れないんだなっていう孤独感というか、切なさを感じてしまったんです。

一同:(静かにうなずく)

マキタ:ただ、聴いてみると分かるんですが、この曲には味な仕掛けがあるんですよ。

スージー:ほぉ。

マキタ:80年代に青春を過ごした人にとってはたまらない、僕がやっている「作詞作曲モノマネ」のようなことをやってるんです。

スージー:へぇ。

一度きりの人生を生きる人間の本質的な孤独さ

マキタ:たとえば、映画の中で、1982年に全世界的にヒットしていたダリル・ホール&ジョン・オーツの『Maneater』(作詞・作曲:D.Hall、J.Oates、S.Allen)を聴いた主人公たちが、Maneater風の曲をつくるんです。

スージー:それ、映画のどのあたりで流れましたっけ?

マキタ:バンドを結成して、いろいろ楽器を持ってる子の家に遊びに行って、曲を作り始めたときの曲がこれです。

スージー:あぁ、そうでした。

マキタ:そこで、明らかにパクってこの曲をこしらえてる設定になってるし、作詞作曲モノマネとしても、すごく出来がいい。当時の80年代の風をものすごく感じるし、イントロもカットアップして、アレンジした上で編集的に使っているし、詞の世界も「結局、自分は自分で人生を歩んでいくんだよ」っていう能動的なところを刺激する、普遍的な若者の気持ちをあおる正しきポップスの歌詞です。だから、おじさんたちが聴いても、ちゃんと、ほろっと引っかかる仕掛けになってる。

――そうなんですね。

マキタ:あるいは、1985年にヒットしたスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)の『パートタイム・ラヴァー』(原題:Part-Time Lover、作詞・作曲、Stevie Wonder)の成分も強めですね。だから、懐かしいところとか、あぁ、これこれっていう感じもすごくある。あの映画のサントラを聴くと、オリジナルでつくった作詞作曲モノマネ的な曲と、実際に当時ヒットしていた曲とが、分け隔てなくうまい状態で入ってるんですよ。

スージー:いかにも80年代な感じの曲がね。

――その懐かしさで「孤独」を感じるということですか?

マキタ:自分で自分の道を切り開いてきたアラフィフは、もう、あの時代には戻れない。あの時代のピュアさとかは絶対に取り戻せないって、今の自分に気づくんですね。いろんな人に助けられてはきてるけど、自分一人で背負ったこの人生を生きているっていう孤独さというか。

スージー:うんうん。

マキタ:「未来は明るいぜ!」と単純には言い切れないし、かつてみたいにちゃらんぽらんに「やってやれ!」って踏み切ることもできない。ただ、粛々と終活を始めるとか、カウントダウンが始まってる自分の人生をしみじみと感じるわけですよ。

――なるほど。

マキタ:この映画を観ると「そうか、一度きりの人生を生きていかなくちゃいけない」ってことで、人間の本質的な孤独さとか……誰かの人生を生きるわけじゃないじゃないですか。自分で、自分の人生を生きていかなくちゃいけないんだなって、感じるんですね。

スージー:これはネタバレになるかもしれませんが、主人公がラストシーンでアイルランドからイングランドに船に乗っていくシーンには、「人生100年時代」と言われて「定年してから、あと40年もあるのか!」ってなったときに、もう1回、船に乗ってイングランドを目指してがんばっていかなければならない“孤独さ”を、今のアラフィフは感じとれるかもしれませんね。

マキタ:アメリカで1967年に封切られて、日本では翌年公開された『卒業』(原題:The Graduate、監督:Mike Nichols)っていう映画がありますよね。二人で教会から飛び出して、バスに乗って、ほっと一息ついたときに、二人で目を合わせたあとで、ふっと顔から笑みが消える……あのラストには、アン・ハッピーエンド的な雰囲気があるんですよね。

スージー:あのシーンを観ながら「あぁ、えぇな……でも、こいつら、これからどうするんやろ?」って、思いましたよ。

マキタ:『シング・ストリート』も、少年と少女が嵐の大海原に乗り出していくんですよ。

スージー:同じだ。あれ、ちょっと、その先に不安がありますよね。

オヤジたち、孤独の向こうの

ただ、粛々と終活を始めるとか、カウントダウンが始まってる自分の人生をしみじみと感じるわけですよ……

アラフィフは第三京浜・東京出口で車を数える

マキタ:向こうに着いたからって、この子たちは、いい思いなんか、全然できないかもしれないって。

スージー:片道切符ですからね。

マキタ:それを知らないまま、向こうに行く。そのラストシーンを観ながら、気分的には二人と一緒に観客もイングランドに行くんですが、こっちは「そんなにいいことばかりじゃねぇぞ」って知ってるおじさんなんです。彼らは夢と希望を持っている。かつての自分もそこにいて、そういう気分もあったけど、今はもう、そこには行けない。だから、孤独というか、人生の悲哀というか……。

――結局、「人間は独りなんだ」ということでしょうか。

マキタ:独りって言っても「誰も俺に触れてくれるな」ってすねてるわけじゃなくて、誰でも人生は一度っきり。「マキタスポーツ」に……っていうか「槙田雄司」に与えられた人生は一回ぽっきりで、僕にしか与えられない。

スージー:そりゃ、イングランドに行ったほうがいいですよね、一回こっきりなんですから。『卒業』の話が出ましたが、僕は、あの映画の音楽を担当したサイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel)の1968年の『アメリカ(America)』(作詞・作曲:Paul Simon)っていう曲が好きなんです。

マキタ:いい歌ですね。

スージー:歌詞の内容は、60年代の終わり、家出か、駆け落ちでしょうか、若い男と女が「二人で暮らそう」って、長距離バスに乗って、ニューヨークを目指すんです。はじめは楽しいんですよ。「あそこに座ってるスーツ姿の男はスパイなんじゃないか」とか言いながら。

マキタ:うん、うん。

スージー:でも、途中でものすごく悲しくなってきて。一番最後のシーンは「ニュージャージーターンパイク」って言って、フィラデルフィアからニューヨークのマンハッタンをつなぐニュージャージー州の高速道路で、たぶん、そこの出口の近くじゃないかな。ニュージャージー出身で日本に詳しい人に言わせると「あれは第三京浜・東京出口(玉川インターチェンジ)みたいなもんや」って言ってましたが、そこで眠ってる彼女に「今の僕には明日が見えないんだ。心が空っぽで虚しいのはなぜだろう?」ってつぶやいて、車を数えるシーンで終わるんですよ。もう、めっちゃくちゃ悲しくて……。

マキタ:あぁー。

スージー:故郷を出たのはいいけれど、ニュージャージーですから、もうニューヨークは目と鼻の先なのに、そこまで来て「あいつらも自分と同じで、アメリカを探しに来たんだ」って思いながら、車を数える……この孤独っていうか、寂寥感っていうか。

――すごいなぁ。

スージー:だから、我々アラフィフは、若者のときにも寂しさはあったけど、景気のいいときに青春時代を過ごした後で、定年を迎えて、もう1回、ニュージャージーターンパイクで車を数えるんじゃないですか。

一同
:(静まり返る)

――すみません。あまりにもお二人の話がディープに深まりすぎたので、ちょっと“息つぎ”ということで、次に移らせてもらいます。スージーさんの「孤独に負けないための歌」は何でしょうか。

スージー:私はシンプルなストラテジーで、孤独になったら、もっと孤独な歌を聴いて「自分はまだましや」と慰めようということで、井上陽水さんの曲を紹介したいと思います。

一同:おぉっ!

(構成/佐保 圭)

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