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2018年09月29日掲載 聖曲『リンダ リンダ』はオヤジの目玉を黒くする

聖曲『リンダ リンダ』はオヤジの目玉を黒くする

日経トレンディ2018/9/29掲載
BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。我が子や若い部下たちに、辛く厳しい歳月を生き抜いてきた人生の先輩として伝えたい曲について語り合う対談。前回、スージー鈴木氏が選んだ浜田省吾の『I am a father』(作詞・作曲:浜田省吾)をともに絶唱し、雄たけびを上げた後、マキタスポーツ氏が“オヤジの魂の叫び”として選んだのは、誰もが知ってる“あの名曲”だった。

『リンダ リンダ』は名曲を超えた聖曲だ

――では、かなり白熱したところで、今度はマキタさんのお薦めの曲を教えてください。

マキタスポーツ(以下:マキタ):僕は、1987年発売のTHE BLUE HEARTSの『リンダ リンダ』(作詞・作曲:甲本ヒロト)です。

一同:おぉっ!

――スージーさんが推した浜田省吾の『I am a father』(作詞・作曲:浜田省吾)とは、全然方向が違いますね。

スージー鈴木(以下:スージー):いや、おんなじ話のような気がします。

マキタ:これは今の子どもだけじゃなくて、日本人、いや、人類の子孫にまで代々聴き継がれていく名曲です。僕は「名曲の条件」って、誰もが知ってるのに、その曲の音源を持ってるわけではないことだと思うんです。

――ほぉ。

マキタ:音源を持っていないのに……。

スージー:みんな、知ってる。

マキタ:そう、知ってるってことですよ。そこまでいくと、もう「名曲」じゃなくて、聖(ひじり)の曲と書いて「聖曲(せいきょく)」と言いたいですね。

――なるほど。「名曲」を超えた、さらに上の「聖曲」ですか。

マキタ:パンク・ロックがなかなか市民権を得られないアングラ音楽として扱われていた当時、『リンダ リンダ』は、それを一段高いところに持ち上げた。しかも、別にパンク・ロックがどうのっていう原理主義的なものとか、イデオロギーとか、思想とか、そういうことじゃなくて、広い層の人たちにこの曲の永遠不変性っていうものが伝わった。

スージー:はい。

マキタ:『上を向いて歩こう』(作詞:永六輔、作曲:中村八大、歌:坂本九)に匹敵するくらいの名曲として、ロック界に誕生したのがこの『リンダ リンダ』だと思っています。

――同感です! この曲は我々の世代を代表する歌です。なのに、以前、『ザ・カセットテープ・ミュージック』のなかで、マキタさんが話されてましたよね。「僕とスージーさんがブルーハーツの話で大盛り上がりしていたら、この番組のプロデューサーのT女史に冷めた目で見られた」って。あの放送を聞いて、私も憤慨していました。きっと反省して、改めてブルーハーツを勉強し直されたと思うので、まずはTさんに歌ってもらいましょうよ。

マキタ:Tプロデューサーが歌うの?

スージー:いや、歌えないでしょ。

Tプロデューサー:それは歌えますよ。

――ほんとですか?

Tプロデューサー:あのとき、お二人の「『リンダ リンダ』が素晴らしい」っていう話に反応が薄くなってしまったのは、カラオケで、みんながソファで飛び跳ねてあの曲を歌っているシーンに、もう500万回くらい遭遇しているからで……。

マキタ:はっはっは!

――そうですか。野郎どもがどれだけ『リンダ リンダ』が好きか、いやというほど思い知らされていたんですね。失礼しました。

ブルーハーツの曲は宗教的な啓示だった

スージー:有名な冒頭の歌詞もさることながら、僕は、やっぱり、

〽 愛じゃなくても恋じゃなくても君を離しはしない
 決して負けない強い力を僕は一つだけ持つ

あの曲の歌詞の一番いいところは、こっちだと思いますね。

マキタ:いやいや。そちらも確かにぐっときますけど、でもやっぱり、冒頭の、

〽 ドブネズミみたいに美しくなりたい
 写真には写らない美しさがあるから

っていう普遍性というか、ひっくり返しのロジックというか。「ドブネズミは汚い」と誰もが信じていることを疑う。実は、そういう汚いものにすごく美しいものがあるんだよって……もう、ハッとして、僕にとっては宗教的な啓示でしかなかった。

――この曲と出会ったのは、マキタさんの出身地の山梨県山梨市のご実家の屋根裏部屋みたいなところで、4歳年上のお兄さんとその仲間たちと一緒に、日本の最先端ロックを聴きまくっていた頃ですか?

マキタ:いや、ブルーハーツにはまったのは高校2年生の頃だったから、兄貴が進学で東京に出て行って、その仲間たちも来なくなって、僕が独りでマキタスポーツ店の3階の倉庫の一室に住んでいたときです。兄貴たちがいなくなって、取り残されたわけです。兄貴という“音楽の道標(みちしるべ)”をなくしちゃったときに聴いたのが、この曲だったんです。

――ほぉ。

マキタ:で、このとき、僕は啓示を受けた。「兄」という神がいなくなったあと、この曲が本当に新しい視点を与えてくれたっていうか……自分が「いけてない」という気持ちをぐるっと好転させてくれたというかね。

一同:(気まずい沈黙が流れる)

マキタ:いや、言うほど、いけてない子じゃなかったんだけどね。

一同:(爆笑)

マキタ:17歳になって、なんか、こう、人生で初めて「うまいこといかねぇな」とか、いろんなことを思い始めるわけですよ。ただのんべんだらりと生きているわけではなくて。そういうなかで、「ドブネズミにこそ美しさがある」という見方や考え方があったのかって。

――確かに、当時はかなりショッキングでしたよね。

マキタ:しかも、これだけ大きくて分かりやすいメロディーで、乗れるビートで感じさせてくれたっていうのは、ほんと……。

スージー:(深くうなずく)

マキタ:僕はお釈迦様やキリストが生まれ育った時代とか知りません。でも、いつも言うんだけど、ボーカルの甲本ヒロトさんとギターの“マーシー”こと真島昌利さんがやった仕事は、冗談じゃなく、お釈迦様の仕事に匹敵するんじゃないかって思いますね。

スージー:(神妙な口調で)聖なる曲。

マキタ:しかも、「意味なんて分かんなくても、お念仏を唱えれば成仏できる」みたいに汎用性が高い。

スージー:ほぉお。

聖曲『リンダ リンダ』はオヤジの目玉を黒くする

マキタ:たとえば、

 ドブネェーズミィ……みたいにぃ……うぅつぅくぅしぃく、なりぃーたい。写真んーには、写らない……うぅつぅくぅしぃさぁが、あぁるぅかぁらぁーーー。(ドラムのカウント風に)カン、カン、カン、カン、(絶叫気味で)リンダ、リンダァァァー! これで、みんな、浄土に行けるんですよ。

一同:(若いプロデューサーやスタッフは爆笑し、オヤジ世代のスタッフは真剣な表情でうなずく)

マキタ:そういうときのオヤジたちの現場だけ見ちゃってるから、若い人は「うわぁー」って思っちゃうかもしれないけど。

Tプロデューサー:そうなんですよね。マキタさんやスージーさんの世代の方は、誰かがカラオケでブルーハーツの曲を歌い出したら、みんな、興奮して瞳孔が開き気味になって、目玉が真っ黒になっちゃってるから。

一同:(若いスタッフたちだけ爆笑)

マキタ:「目玉が真っ黒」って、どういうことだよ!

スージー:我々の世代と若い人たちにとってのブルーハーツへの思い入れの違いをたとえるなら、若い人たちは教会へお菓子をもらうために、クリスマスのときにしか行かないようなもの。これじゃ、良さは分かんないですよ。ちゃんとブルーハーツの日曜学校に行かないと。毎週、聖歌『リンダ リンダ』を歌いに行かないと、分からないですよ。

――スージーさん、ちょっと目玉が黒くなり始めてます……。

体は飛べなくても、心が跳ねればいい
マキタ:さっきの「音源を持っていないのに、みんなが知っている聖曲」の話で言うとですね、いろんな地方の小屋でプレイしてる知り合いのDJがいて、彼は日本のいろんなロックを流すんだけど、今の時代って、ほんと、その場の全員が乗れる曲が少ないんだって。

スージー:あぁ、なるほど。

マキタ:「世代が5年ずれただけで、もう乗れなくなっちゃうんです」って。

一同:ほぉお。

マキタ:「だけど『リンダ リンダ』は世代に関係なく、全員、一発です!」って。

スージー:それ、2002年の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2002」で、僕も体験しました。DJのコーナーがあって、いろんな曲をかけてたんだけど、ブルーハーツの『終わらない歌』(作詞・作曲:真島昌利)がかかった途端、群衆にパッとスイッチが入る瞬間を見ました。

マキタ:そうなんです。まさにブルーハーツの曲には、それだけの力がある。

スージー:えぇ。

マキタ:だから、悪用するとヤバい力を発揮してしまうっていうのも、ほんとそう。スレスレなんですけど、『リンダ リンダ』っていう曲は、全人類的なピュアさみたいなもの、人間の悪さも含む情動みたいなものをパーンと出させてしまうエネルギーがあるんです。

――すごいエネルギーですよね。

マキタ:そう。だから、僕は「この曲の普遍的な価値はそこにある」ということを改めて若い人たちに言い遺しておきたい。なぜ、この曲が、名曲の上位にあるのか、なぜ、聖曲にまでなっているのか。

スージー:この連載のテーマ曲にしなければ。

マキタ:そうそう。

――浜田省吾の『I am a father』とブルーハーツの『リンダ リンダ』、どっちにすればいいんですか?

広報のT女史:じゃあ、オープニングに『I am a father』、エンディングに『リンダ リンダ』を流すということで。

一同:(爆笑)

――では、最後に一言ずつ、読者にメッセージをお願いします。

マキタ:じゃあ、僕から。我々オヤジ世代には『リンダ リンダ』でジャンプするだけの脚力が、もうない。

スージー:はい。

マキタ:ないと思いますけど、心が跳ねていればいい。そういうことを伝えてくれてる曲だと思う。

一同:(真剣な顔で深くうなずく)

マキタ:でも、若い女性に対する黒い目玉の「リンダ リンダ・ハラスメント」は、できるかぎりやめましょう。

一同:(爆笑)

マキタ:若い女子のなかには、落ち着いてカラオケとか楽しみたい人たちもいるんでしょう。だけど、男どもは老いも若いも関係なく、“リンダ リンダ”教のスイッチが一回入っちゃうと、もう止めようがないのも許してほしい。

スージー:そうそう。

マキタ:読者のみなさんは、ブルーハーツの“世代を超えた普遍性”みたいなものを噛みしめて、この曲で心を奮い立たせて、いつまでも若い気持ちで、タフにがんばっていただきたい。

より濃厚に、徹底的に、こってり語る!

――では、スージーさんからも読者に一言お願いします。

スージー:タイトルにつきますね。『I am a father』。昔の「家長」みたいに偉そうな感じでもなく、サラリーマン川柳みたいに卑下するわけでもなく、自分が父親であることを自然体で受け止めてほしい。

マキタ:“父親の悲哀”みたいな感じじゃなくてね。

スージー:そう。ただ単純に『I am a father』って歌った日本では初めての曲。たぶん、今後も出ない……そういう意味では、これも日本の“聖なる曲”ですよ。

マキタ:以前の沢田研二の『カサブランカ・ダンディ』(作詞・阿久悠、作曲・大野克夫)で話したことにつなげちゃうと、今の時代は、おじさんたちが「メタ視点(“おじさん”である自分を俯瞰的に見つめ直すこと)」を持たされてしまうわけでしょ?

――そうですね。

マキタ:でも、持ってしまって、そのことを意識しちゃうと、途端にダメになっちゃう。

スージー:はい。

マキタ:ダメになっちゃうけど、それでも、やっぱり『I am a father』みたいな気持ちを持って……。

スージー:「私は父親です」って。

マキタ:そういう気分で、前を向くことが大事なんじゃないかな。

スージー:「あの人は父親です」じゃなくて「私は父親です」って。今の時代の父親は、こういうメンタリティを持った方がいい。

マキタ:ただ、難しいんですよね。自虐ネタの方がウケを取りやすいから。

スージー:そうですね。

マキタ:でも、「自虐ネタ」って「ドーピング」でもあるから。

スージー:うん、うん。

マキタ:そういうことだけに逃げないで、『I am a father』って、毅然とした態度をとってほしい。

スージー:「a father」なんですよね。「ある一人の父親」つまり、どこにでもいる市井の存在。でも、誇らしく。

――浜田省吾には、そういうストレートな歌詞の曲が多いですね。

スージー:過度にパワー・ハラスメントもせず、自虐にもならず、一人の人間、一人の父親としての存在感を歌にしているんですよ。

――ちなみに、毎週土曜日午前2時から始まる30分番組のBS12 トゥエルビの『ザ・カセットテープ・ミュージック』が、10月から、毎週日曜日午後9時スタートの1時間番組になります。せっかくですから、ゴールデンタイムに打って出る感想をお願いします。

マキタ:ゴールデンタイムとは言え、変な意味じゃなくてトゥエルビさんなんで(笑)。

一同:(爆笑)

マキタ:見てくださる方々は、このチャンネルまでたどり着いてきた人たちですから、あんまり中途半端な、おもねったことはやりたくないです。

――ほぉ。

マキタ:ここまでくる人は基本的に意識的な人たちだから。間違って見ちゃう人もごく少数はいるかもしれないけど、そこに合わせて中途半端な感じでやるよりも、今まで深夜2時にやってた本質を僕は変えたくない。

スージー:むしろ、より濃厚に! 徹底的に語る、と。ユーミンについて(笑)。

マキタ:ブルーハーツについて(笑)。

スージー:こってり語る。さらに湿度を上げていきますよぉ!

――ありがとうございました。

聖曲『リンダ リンダ』はオヤジの目玉を黒くする

『ザ・カセットテープ・ミュージック』は、10月から毎週日曜日午後9時スタートの1時間番組になります!

(構成/佐保 圭)

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