
BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。今回のテーマは「オヤジが若者に歌いたい曲」。我が子や若い部下たちに、厳しい歳月を生き抜いた人生の先輩として伝えたい“魂の一曲”について語り合う。
――今回は自分の子どもに歌ってやりたい歌、あるいは若い部下たちの心に届けたい歌など、若者たちに伝えたい名曲がテーマです。
スージー鈴木(以下:スージー):『ザ・カセットテープ・ミュージック』では80年代歌謡曲に限定されていますが、この連載ではちょっと新しい歌でもかまいませんか?
――はい。『オヤジの処方箋』では、“私たちオヤジ世代の心に響く”ということが条件ですので、時代にはあまりこだわらなくても大丈夫です。
スージー:では、ちょっと新しい曲なんですが、浜田省吾の『I am a father』(作詞・作曲:浜田省吾)。
マキタスポーツ(以下:マキタ):(感慨深げに)うぁー!
スージー:2005年に発売された曲なんですが、この連載にぴったりな曲なので、ぜひ、これを。
マキタ:なるほど。
スージー:では、朗読します。
〽 額が床に付くくらい
頭を下げ毎日働いてる
家族の明日を案じて 子供達に未来を託して
傷ついてる暇なんか無い 前だけ見て進む
マキタ:(黙って、深くうなずく)
スージー:続きもいいですよ。
〽 スーパーマンじゃない
ヒーローでもない
疲れたどり着いた家
窓の明かり まるでダイヤモンド
I am a father.
こういう“父親讃歌”は、最近、ないじゃないですか。“母親”はわりとドラマチックに語られるけれど、浜田省吾はあえて“父親”という存在への応援歌をつくった。
マキタ:うん、うん。
スージー:まぁ、ほかにも挙げるとすれば、忌野清志郎の『パパの歌』(作詞:糸井重里、作曲:忌野清志郎)とか。
マキタ:いい曲ですね。
スージー:でも、『I am a father』は、よりストレートに“父親の想い”を歌っている。名曲中の名曲だと思いますね。
――この曲で“ストレートな父親の思い”が感じられる部分は、ほかにもありますか。
スージー:全体的に父親が一生懸命頑張ってるっていう内容なんですけど、一番しびれるのが、大サビのところで、ライブでは……(と言って、歌い始める)
〽 子供が幼く尋ねる
マキタ:大サビのところね。
スージー:(小さくうなずいてから、メロディなしの語り口調で)「ねえ父さん」
マキタ:(メロディを続ける)
〽 「何故人は殺し合うの?」
スージー:で、その子どもを(とつぶやいてから、メロディに戻って)
〽 抱き寄せ 命の儚さに熱くなる胸の奥……
って。チャンピオンでもリーダーでもない父親を応援してるんですけど、途中で、社会性のあるメッセージっていうか、子どもへの愛から人類愛みたいなテーマに行くっていう……いやぁ、いいですね。
マキタ:僕も好きです。忘れもしないですけど、この曲は、長女が生まれたばかりの頃に発売されたんです。
僕の長女が生まれてまだ1歳くらいだったんですけど……
――ほぉ。
マキタ:しかも、僕の奥さんの親戚がコーラスで入っているんです。
スージー:へぇー、そうなんですか?
マキタ:当時、浜田省吾さんの事務所「Road&Sky」で彼のプロデューサーをしていた方が「ザ・モップス」の元ドラムスで、鈴木ヒロミツさんの実弟なんで。その方の奥さんが、うちの妻の従姉妹なんです。僕も彼に会ったことはあるけど、彼の娘さんたちがコーラスで入っているんです。
――なるほど。
マキタ:これ、彼女たちが録音したものだから聞いてください、ということでCDをもらったんですよ。僕の長女が生まれてまだ1歳くらいだったんですけど、この『I am a father』を聞いて、この歌詞で胸を打たれないわけないじゃないですか。
スージー:うん、胸を打たれないわけない。
マキタ:で、初めて父親になったときに僕も“I am a father”ですから、自分の心情とすごく近いものを感じて……。
一同:(静かにうなずく)
マキタ:「なぜ人は殺し合うの?」とは聞かれない年齢でしたが、初めてオヤジになって、小さな命を抱えて……当時、僕、全然売れてなかったけど、額に汗して働いて、この子たちを食わせていかなくちゃいけないんだなって。そのためには、なんでしょうか、妙なプライドとかがすごく高かったわけですけど、そういうものとかも、かなぐり捨てなくちゃいけないっていうね。
スージー:はい。
マキタ:そのことには、若干の“寂しさ”みたいなものもあるんですよ。
スージー:はい。
マキタ:“寂しさ”はあるんだけど、まあ、結局「この子のためにがんばらないといけない」っていう踏ん切りをつけるための曲にもなってました、ほんと。
スージー:この歌の歌詞の最後も、
〽 かつて夢見る少年だったこのオレも
今ではFather.
マキタ:うん、そうですね。
スージー:意味的には、夢を捨ててるわけですけど、その現実を生きていこうと。
マキタ:うん、そう。
スージー:コンサート会場の大きなモニターにライブ中継で、客席んところで親子の……ね……父親と子どもの姿が映し出されて……あはぁー、ちょっと待って(と言いながら、目頭を押さえ、震える声で)来た!
マキタ:(同じく震える声で)来たね。
スージー:客席で子ども抱いてる父親の影が、モニター上に、ぱっぱっぱっと……。
マキタ:なるほど、なるほど。
スージー:(涙をぬぐいながら)ああ、これはもう、涙腺決壊、水のトラブル。
マキタ:(そっと目頭を押さえながら)あはははは。
スージー:この連載では、いつか、この『I am a father』の話をしたいと思っていたけれど、まさか、こんなに早いタイミングで来るとは……。
マキタ:“浜省”っていうと、やっぱり初期の曲がよく語られる。実際、僕も初期の曲がすごく好きですけど……この曲は、ほんと、たまりませんね。
――私にも子どもが二人います。親はぐっときますが、当の子どもたちは、この曲をどういう気持ちで聞くんでしょうね。
スージー:どうでしょうね。子どもには分かんないんじゃないですかね。でも、いつか分かるんじゃないですかね。
マキタ:いつか気がつく時限爆弾みたいになればいいと思うし。
――ほぉお。
いつか、この『I am a father』の話をしたいと思っていたけれど……
マキタ:いつかは子どもたちも父親や母親になるんだろうし、いつかは自分が思い描いていた薄っぺらな夢が破れて、次の段階に行かなくちゃいけなくなるときがあると思うんですよ。
スージー:この曲は、若者にはわかんないですよ。R40ぐらいじゃないですか。40歳くらいにならないと分かんないんじゃないですかね。
――だからこそ、R50の胸を打つ歌なんですね。
スージー:この連載のテーマソングにしていただいてもいいくらいですね。
――この連載記事のサイトを開いたら、流れ出すとか。
マキタ:なんかさぁ……(と言って、歌いだす)
〽 迷ってる
(浜田省吾風に)うおおおお、おーっおおーーー!(と雄叫びを上げてから、また歌う)
〽 暇なんか無い
っていうところ、これメロディ的にもすごい好きなところなんです。
スージー:(深くうなずく)
マキタ:子どもを見ていると、あいつら、迷うし、暇もいっぱいあるし……。俺ら、おまえたちのこと食わせるために、いっつも、いろんなことやってさ、とにかく暇ねぇんだよ。
一同:(深くうなずく)
マキタ:『ザ・カセットテープ・ミュージック』に備えて、いろんな曲だって聞いたりしているわけだしさ。ほんとは自分が好きな曲をただ漫然と聞きたいかもしれないけど、俺はおまえたちを食わすために、番組のための予習とかもしなくちゃいけなかったり……。
スージー:ノートに番組で話す内容や取り上げる曲の歌詞をきちんと書いてきてるし。
マキタ:確定申告の用紙もつくって、税理士にも会って、俺、忙しいよ。ほんと、迷ってる暇なんかねぇんだよって。
スージー:(突然、浜田省吾の雄たけび風に)うおぉぉ……。
マキタ:(つられて、最後のパラグラフの歌詞を歌い始める)
〽 迷ってる
マキタ&スージー:(熱いユニゾンで)おーっおおーーー!
マキタ:(絶唱気味に)ひまなぁーんか、なぁーい!
マキタ&スージー:(さらに熱いユニゾンで)
〽 選んだ道進む
一同:(拍手喝采)
マキタ:ほんとにね、これ、ぐっときちゃうんですよね。
スージー:うん、うん。
――では、かなり白熱したところで、今度はマキタさんのおすすめの曲を教えてください。
マキタ:僕は、1987年発売のTHE BLUE HEARTSの『リンダ リンダ』(作詞・作曲:甲本ヒロト)です。
一同:おぉっ!
(次回へつづく)
(構成/佐保 圭)
日経トレンディ2018/9/21掲載
前回は、クイーンの『Somebody To Love』のなかで、フレディ・マーキュリーがピュアな思いを歌い上げることの中にこそ「希望」がある、とマキタ氏が熱弁した。後半は、スージー氏が名曲『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に喚起される「オヤジ世代の永遠の少年性」の中に「希望」を見いだす。
80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの対談も、いよいよ最終回を迎える
「お金」をテーマとした対談の前半戦は、スージー氏の「アラフィフは、お金をかけずにもっと発信しよう!」というメッセージのあと、マキタ氏の「人間は単なる“うんこの通り道”」という問題提起によって、一気にヒート・アップ! 対談の後半戦では「お金」と「うんこ」の類似性に触れながら「オヤジ世代の理想の“お金の使い方”」へと議論が深化する。
今回のテーマは、ずばり「お金」。家族の生活費や子どもの教育費、さらには自分の老後の準備など、何かと「お金」が必要になるアラフィフのオヤジ世代は、お金とどんな付き合い方をすればいいのか。折り返し地点を過ぎた残りの人生を豊かにするために、お金との付き合い方のヒントをくれる曲について、マキタ&スージーが伝授してくれた。
前半では、スージー氏が「騒動の理由は沢田研二が筋の通らないことに激怒したから」という持論を展開。それを受けて、後半では、マキタ氏が「ある程度の年齢に達した人間は、ジュリーのように生き方をシンプルにするべきではないか」という“オヤジ世代が学ぶべき人生論”を読者に問いかけた。
今回のテーマは「沢田研二に“オヤジ世代の美学”を学ぶ」。2018年10月17日、70歳記念全国ツアーのさいたまスーパーアリーナ公演を直前になって突如中止したジュリーについて、世間ではさまざまな批判が飛び交い、騒動となり、ジュリーは謝罪会見まで開くことに……。しかし、本当にそれで良かったのか? オヤジ世代の代表として、ジュリーを応援するマキタ&スージーが、軽々しく「沢田研二」を批判する風潮に物申す!
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