
BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で、80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの企画。第3回のテーマは「オヤジ讃歌」。「年を取って初めて分かることもある」というオヤジだからこそ楽しみ味わえる曲や、オヤジとして生きていくうえでヒントになる歌などについて語りつくす。
――第1回のテーマ「役職定年」、第2回のテーマ「妻への2度目のラブレター」に続いて、今回で第3回となる対談のテーマは「オヤジ讃歌」です。今日は、どちらからいきますか?
マキタスポーツ(以下:マキタ):じゃあ、僕からいきますか。
スージー鈴木(以下:スージー):お願いします。
マキタ:「昭和は遠くなりにけり」ということで、若い人にはまだ、この魅力って、なかなかわかんないって思う一曲。時が過ぎても、相変わらず味わい深い、沢田研二の『カサブランカ・ダンディ』(作詞:阿久悠、作曲:大野克夫)。
――おぉっ!
スージー:うわっ、しまった! ちょっと、だぶった……。
マキタ:だぶっちゃった?
スージー:あっ、いいです。マキタさんが先攻ですから。
マキタ:じゃあ、いかせてもらいます。あの曲、歌い出しが、
〽 ききわけのない 女の頬を
ひとつふたつ はりたおして
みたいなことで、いきなりフリが過激なんですよね。そのあとで、
〽 ボギー ボギー あんたの時代はよかった
つまり、今の時代ではさすがにそんなことできないよってこと。名画『カサブランカ』の主役の名優ハンフリー・ボガード、愛称「ボギー」みたいなマッチョな振る舞いは、あの曲が歌われた1979年当時でも、もうできなくなってた。いつの時代も、男は自分がなりたい大人像にはなれないんです。
――たしかに。
マキタ:今の時代も、そう。リアルに自分の身近にいる女性で言えばカミさんですけど、万が一、カミさんの頬を一つ、二つ、張り倒すみたいなことをしたら……。
スージー:(声を震わせながら)殺される。
マキタ:(恐怖に顔を強張らせながら)そう、殺されますよ。つまり、いかに現実の話から遠いかってことなんです。ボギーの時代を『カサブランカ・ダンディ』の79年当時から振り返ったときも、あくまでもファンタジーとして「あなたの時代はよかったね」って。そのこと自体が、すごいお茶目だと思うんです。
スージー:ほぉ。
マキタ:この“茶目っ気”っていうか……なんつうかな……“しなやかなお茶目さ”みたいなものが、オヤジだからこその強さなんじゃないかって。
――なるほど。
マキタ:若いころって「つっぱってなんぼ」みたいな感じ、あるじゃないですか。でも、かたくなに真っすぐであるがゆえに「ぽきっと折れたらおしまい」みたいな。
スージー:ある、ある。
マキタ:オヤジになるってことは、周りの環境を柔軟に受け入れていくこと。俺なんかね、外では「カミさんが言うこと聞かなかったら、張り倒しちまえばいいんだよ!」って言って、偶然そこにカミさんがいて「あんた!」って怒鳴られたら、途端に「す、すいませんっ!」ってなる。
スージー:(必死の口調で)ごめんなさい、ごめんなさいって。
マキタ:そう、そんなことを愛情持って言う。“フリ・オチ”でちゃんと見せたりするオヤジ世代のしなやかさ。これは若い人にはまねできないですよ。
――つまり、『カサブランカ・ダンディ』という歌は、マッチョな時代のボギーを本気で羨ましがっているのではなくって、一見「俺たちの時代はそんなこと絶対にできないよ」って嘆きながらも、その男のふがいなさと優しさを逆に肯定しているというか、立場の弱くなった男の悲哀を諧謔的に味わっているというか……そういうことなんでしょうか。
マキタ:もし、自分の弱みをつっこまれたら、若いやつって、むっとしちゃう。そういうときのオヤジ世代の処世術って、なんていうかな、その受け入れ方、受け止め方が、一つの芸になってると思うんです。
スージー:うん、うん。
マキタ:俺、酒場で偉そうなこと言ってても、偶然、上司とか来たら、急に「へへぇっ」ってなっちゃうんだよな、みたいな情けないことも言えるのが大人のマナーだと思うし、強さでもある。そういうのって、若い人にはなかなか身につかないんじゃないか、そういう深いメッセージが『カサブランカ・ダンディ』には、こめられてる。
――『カサブランカ・ダンディ』には、オヤジ世代の男、いわゆる“おじさん”の情けなさやかっこ悪さをしなやかに受け入れる強さが描かれているというのは分かりました。でも、その曲を歌っていた当時の沢田研二は、かっこ悪いどころか、かっこ良すぎてまぶしいくらいでしたが?
マキタ:そう、かっこいい!
スージー:ほっそいの!
マキタ:そう、細くてさ……(かぶっていたソフト帽を傾けて)こんな感じで、(アゴをそらし、見下ろし気味の流し目で)こういう表情で、めっちゃ、ゆるく歌ってるわけ。
こんな感じで……
――目の感じが、すごく似てます!
スージー:ほんとだ、岩本恭生さんみたい!
一同:(爆笑)
マキタ:帽子をかぶれば岩本恭生、帽子をとったらコージー冨田……バカヤロー!
――おぉっ、見事な“フリ・オチ”ですね。それにしても、当時のジュリーには、子ども心におじさんの色気のようなものを感じました。でも、『カサブランカ・ダンディ』が発売されたときの沢田研二は、まだ30歳。今考えると、全然“おじさん”なんかじゃなかったんですね。
スージー:あの頃の芸能界っていうか、歌謡界のメインは20代の音楽でしたからね。三十路に入った沢田研二は、相対的には年寄りと言えるんです。
マキタ:そうだったのか。
スージー:私も沢田研二の曲を用意してきたんですが、だぶったので、曲の方は別のネタにしますけど、“おっさんの力強さ”を語るなら、やっぱり沢田研二ですよね。
マキタ:ほぉ。
スージー:2018年7月の武道館コンサート、沢田研二 70YEARS LIVE「OLD GUYS ROCK」に行ってきましたよ。
マキタ:すごかったでしょ?
スージー:ボーカル、沢田研二。ギタリスト、柴山和彦。以上、たった2人だけ。それで、70歳で、2時間、十数曲を歌いきりましたから。
マキタ:すごいね。
スージー:普通ね、70歳になったら、リサイタルみたいな感じで、オーケストラバックに歌いますよ。でも、武道館でたった2人。あれは、おっさんパワー、ここに極まれりですよ。
――そういえば、マキタさんの16歳の娘さんが沢田研二のファンだと聞きましたが。
マキタ:沢田研二を好きになったせいで、リアルで付き合っていた高校一年生の男の子をふったらしいです。
スージー:まさに『ジュリーがライバル』(歌:石野真子、作詞:松本礼児、作曲:幸耕平)!
マキタ:うまい!
――父親としては、どんな気持ちなんでしょうか。
マキタ:はっきり言って、気持ち悪かったです。娘とカミさんの女同士で結託して、俺の知らないところで、娘が彼氏と付き合っていて、そのことをあとで知らされたことでモヤモヤするのに、僕に知らされたときにはもう別れていて、理由を聞いたら「ジュリーが好きになったから」って……もう、二段階でモヤモヤして。
一同:(爆笑)
マキタ:「おまえが好きなのは、映像っていうバーチャルな世界で見てる過去の沢田研二なんだから」っつって娘を諭しながら、なんだか、よく分からない気持ちになりましたね。
スージー:(冗談めかして)もしかして、これから、田中裕子に嫉妬心を抱いたりして。
マキタ:(真面目な口調で)「私は田中裕子さんが憎い」って言ってましたよ。
スージー:たいへんだ。
――若いころから70歳になるまで、文字通り“時を超えて”世の女性たちを魅了し続ける沢田研二さんの魅力のすさまじさを見せつけられたところで、スージーさんが提案される“オヤジの魅力”を感じさせるアーティストは、どなたでしょうか。
スージー:本当は沢田研二の『晴れのち BLUE BOY』(作詞:銀色夏生、作曲:大沢誉志幸)の話をするつもりだったんですが……だぶってしまったんで、山下達郎さんです。
マキタ:そうきましたか!
スージー:94年の『山下達郎 SINGS SUGAR BABE』というコンサートで、山下達郎がSUGAR BABE時代の曲を歌うというのが24年前にあったんです。24年前ということは、山下達郎がまだ40代そこそこ。
マキタ:41歳だ。
スージー:あのとき、たしか一番最後に『MY SUGAR BABE』(作詞・作曲:山下達郎)っていう曲を歌って、「みなさん、かっこよく、年を取りましょう!」って言ったんですね。
マキタ:おぉ!
スージー:あと、曲で言えば、山下達郎の『蒼氓』(作詞、作曲:山下達郎)ですね。
マキタ:おぉ、『蒼氓(そうぼう)』!
スージー:ええ歌詞ですよ。
〽 憧れや名誉はいらない
華やかな夢も欲しくない
生き続ける事の意味
それだけを待ち望んでいたい
本人はロックスターで、すごい日本のボーカリストなんですけど、歌っていることは「市井の人々」のこと。
マキタ:うん。
スージー:だから何かというと、年を取った人、いわゆる“おっさん”に対する応援歌みたいなところがある。
マキタ:うん、うん。
スージー:『蒼氓』の歌詞は、ほんとにいいです。
〽 遠く翳る空から
たそがれが舞い降りる
ちっぽけな街に生まれ
人混みの中を生きる
数知れぬ人々の
魂に届く様に
僕の頭の中では、泉谷しげるの『春夏秋冬』(作詞・作曲:泉谷しげる)に近いものがあります。一般に生きている普通の“おっさん”の応援歌っていうのを山下達郎は背負っているんです。
マキタ:うん、うん。
スージー:その背負ってる歌の中の一番の代表曲が、この曲です。
山下達郎の『蒼氓』の歌詞は、ほんとにいいです(しみじみ)
番組広報のT女史:私は山下達郎さんのファンなんですが、今でもコンサートの最後には「市井で毎日、真面目に生きている人たちこそ、一番すごいんだ!」って言って、「みなさん、辛いことがいっぱいあるけれど、かっこよく年を取りましょう!」って言ってくれるんです。
スージー:やっぱり「山下達郎=落合博満」論だよね。
――なんですか、それ?
スージー:2人とも昭和28年生まれ。
マキタ:そう、同じ年生まれ。
スージー:それで、若いころから自我が強烈に強くって、権力とか周囲の圧力に屈せず、我が道、俺流でいくっていう、いい意味で「めんどくさい昭和28年生まれ」っていうことで、「山下達郎=落合博満」であると。
マキタ:なるほど。
スージー:ついでに、沢田研二でいうと「沢田研二=江夏豊」論。
――理由は?
スージー:2人とも昭和23年生まれで、めんどくさくって、一匹狼で、元「タイガース」で、年を取ると太っていき、今や70歳。
マキタ:沢田研二は一世を風靡したグループサウンズの「ザ・タイガース」のボーカルだったし、江夏豊は最初に入団して黄金期を築き上げたのが「阪神タイガース」だから、2人とも、元「タイガース」か……うまいこと言うね。
――30歳で、かつてオヤジがかっこよく生きられた時代を歌い、70歳になっても「かっこいいオヤジ」であり続ける沢田研二と、「オヤジとしてかっこよく生きましょう!」とエールを送り続ける山下達郎。この2人が“かっこいいオヤジ”の代表であることは分かりましたが、では、読者のみなさんが、2人のように「年を取っても、かっこよく生きる」ためには、どうすればいいのでしょうか。
(次回、後半戦へつづく)
日経トレンディ2018/8/31掲載
前回は、クイーンの『Somebody To Love』のなかで、フレディ・マーキュリーがピュアな思いを歌い上げることの中にこそ「希望」がある、とマキタ氏が熱弁した。後半は、スージー氏が名曲『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に喚起される「オヤジ世代の永遠の少年性」の中に「希望」を見いだす。
80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの対談も、いよいよ最終回を迎える
「お金」をテーマとした対談の前半戦は、スージー氏の「アラフィフは、お金をかけずにもっと発信しよう!」というメッセージのあと、マキタ氏の「人間は単なる“うんこの通り道”」という問題提起によって、一気にヒート・アップ! 対談の後半戦では「お金」と「うんこ」の類似性に触れながら「オヤジ世代の理想の“お金の使い方”」へと議論が深化する。
今回のテーマは、ずばり「お金」。家族の生活費や子どもの教育費、さらには自分の老後の準備など、何かと「お金」が必要になるアラフィフのオヤジ世代は、お金とどんな付き合い方をすればいいのか。折り返し地点を過ぎた残りの人生を豊かにするために、お金との付き合い方のヒントをくれる曲について、マキタ&スージーが伝授してくれた。
前半では、スージー氏が「騒動の理由は沢田研二が筋の通らないことに激怒したから」という持論を展開。それを受けて、後半では、マキタ氏が「ある程度の年齢に達した人間は、ジュリーのように生き方をシンプルにするべきではないか」という“オヤジ世代が学ぶべき人生論”を読者に問いかけた。
今回のテーマは「沢田研二に“オヤジ世代の美学”を学ぶ」。2018年10月17日、70歳記念全国ツアーのさいたまスーパーアリーナ公演を直前になって突如中止したジュリーについて、世間ではさまざまな批判が飛び交い、騒動となり、ジュリーは謝罪会見まで開くことに……。しかし、本当にそれで良かったのか? オヤジ世代の代表として、ジュリーを応援するマキタ&スージーが、軽々しく「沢田研二」を批判する風潮に物申す!
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