
40代、50代のビジネスパーソンにとって、かつて夢中になった80年代を中心とする歌謡曲は、癒やしを与えてくれる心の拠り所。そっと口ずさむだけで勇気が湧き、大事なものに気付かせてくれる深遠なメッセージが隠されている。この連載では、BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏に、厳しい世の中をしたたかに生き抜くための「歌う処方箋」について語ってもらう。
――前回は、40代、50代の読者が青春時代に聴いた80年代を中心とした歌謡曲から、「役職定年」でがくっと落ち込んだ気持ちを整理し、新たな人生を歩むための応援歌を取り上げ、相当盛り上がりました(心折れそう…「役職定年」に打ち勝つ応援歌(前半戦)、同(後半戦)参照)。続きまして、今回のテーマとして取り上げたのは「定年後の夫婦関係」です。
スージー鈴木(以下、スージー):なるほど。
――近年のオヤジ世代は、働いて、働いて、やっと定年を迎えてほっとできると思った途端、唐突に妻から「離婚しましょう」とか「お墓は別にして」とか、すごくシビアな状況に陥ることがあります。定年前の現役のうちに、こうした危機に対してなんらかの手を打っておかないと、家から放り出されちゃうかもしれない。
マキタスポーツ(以下、マキタ):うん、うん。
――そこで「定年後に三行半を突きつけられないために妻に贈る歌」を教えてほしいのです。恋人になったときや結婚したときに捧げる歌を最初のラブソングだとしたら、今回は言わば「二度目のラブソング」というわけです。
スージー:考えてまいりました。
マキタ:ほぉ。
スージー:歳をとったら、やっぱり人間は弱くなる、と。
マキタ:うん。
スージー:「そういうときこそ恋愛が大事なんだ」っていうテーゼを考慮しますと、ここは1988年にリリースされた浅香唯の『セシル』(作詞:麻生圭子、作曲:NOBODY)ですね。
スージー鈴木:1966年大阪府生まれ。音楽評論家、昭和歌謡から最新ヒット曲まで邦楽を中心に幅広い領域で、音楽性と時代性を考察する。著書『イントロの法則80's 沢田研二から大滝詠一まで』『1984年の歌謡曲』『サザンオールスターズ1978-1985』など
――BS12トゥエルビ「ザ・カセットテープ・ミュージック」で去年の年末に放映された「カセットテープ紅白歌合戦」でも、スージーさんはこの曲を推薦されていましたね。
スージー:歌詞を読み上げますね。
〽 人は大人になるたび 弱くなるよね
ふっと自信を失くして 迷ってしまう
だから友達以上の 愛を捜すの
今夜私がそれに なれればいいのに
……何かというと、弱いときこそ恋愛が大事なんだと。体が弱ってきたときこそ大事なんだということをですね、浅香唯のメッセージに乗せるとその思いがはっきりする。
――あの番組の中でも、同じ部分の歌詞を読み上げて思わず涙ぐんでしまわれ、そんなスージーさんを見て、マキタさんも目を潤ませた。そのとき、マキタさんの名言「人は大人になるたび涙腺も弱くなるよね」が生まれました。
スージー:浅香唯さん、作詞の麻生圭子さんは、こうもおっしゃってます。
〽 恋は楽しい時より 悲しい時に
そっと始まった方が 長く続くね
って。
マキタ:なるほど。
マキタスポーツ:1970年山梨県生まれ。ミュージシャン、芸人、俳優。2013年、映画「苦役列車」の好演をきっかけに、役者として活躍の場を広げる。文筆家としても鋭い時評・分析を展開。著書『すべてのJ-POPはパクリである 現代ポップス論考』『決定版 一億総ツッコミ時代』など
――私も50代半ばですが、若い頃はあまりピンとこなかったのに、こうして大人になると、しみますね。
スージー:逆にね、当時は分かんなかったことも、今になって、50を超えて分かる歌ですね。そういう意味では「回春ソング」ですね、これ。
マキタ:はっはっは。
スージー:『セシル』です。
――この歌は、奥さんに歌ってあげるんですか。それとも、奥さんに歌ってもらうんですか。
スージー:聴かせるのがいいんじゃないですかね。CDでね。「ほら、昔、聴いたじゃない?」って、当時を思い出すように……何気なく。
――そして、すっかり大人になった夫は弱くなっているから、「私が友達以上の愛になれれば」って妻に思わせる、と。
スージー:そうそう。
――すごい! この記事が出たら、浅香唯のCDの売り上げが、少しだけ上がるかもしれませんね。回春ソングとして。
スージー:当時、浅香唯の歌でNOBODYがつくった『セシル』と、こちらも浅香唯の歌で88年にリリースされた木根尚登作曲の『Melody』(歌詞:森雪之丞、作曲・木根尚登)の2曲のどっちがいいか、「セシル・Melody論争」というのがありました。
マキタ:『Melody』っていう曲の歌詞は?
スージー:こうです。
〽 Love is Feeling Love is a Dream
自分をあきらめないで
Love is Feeling Love is a Dream
心のときめきがMELODY
「自分をあきらめないで」や「心のときめきが」といった歌詞の内容だけでなく、音楽も、こっちは割と元気系ですね。そう考えると、単なる元気だけじゃなく、胸に染み入ってくるような感じもあり、やっぱり『セシル』は名曲ですよね。
マキタ:『セシル』についてはねぇ、スージーさん、いつもおっしゃる。確かに、今聴くと味わいが、あの頃とは全然ちがう。
スージー:50代になって聴くと、しみてきますよね。だから、やっぱり「回春ソング」なんですね。
――では、マキタさんはどんな歌を選ばれましたか。
マキタ:僕はもう、はっきり言って、定年前の二人に足りないのは、いわゆる「夫婦の営み」だと思いますね。
――それも、すごく刺さりますね。
マキタ:なんか、もう一回、フレッシュな気持ちで、その頃の気持ちとか、性的なエモーションを呼び戻す。
スージー:なんか、来そうな曲が分かりましたけどね。
マキタ:そうですか? 僕は、定年前のオヤジ世代には、ジューシィ・フルーツの『ジェニーはご機嫌ななめ』(作詞:沖山優司、作曲:近田春夫)を聴いていただきたい。
スージー:(イントロをクチ三味線で)タ、ティ、ト、ティ、テ、ティ、テ……。
マキタ:そう、そう、そう。ちょっとニューウェイブなあの頃のサウンドとか、ちょっとキッチュな世界観とか。他人のことは分かりませんけど、僕もおじさんとして、あの頃のピコピコした感じとか、ニューウェイブな感じを聴くと、なんか、こう、海綿体を刺激されるというか。
「もう一回、フレッシュな気持ちで、その頃の気持ちとか、性的なエモーションを呼び戻す……」とマキタさん
――にわかには理解しがたいですね。たとえば何かにたとえていただくなど、もう少し分かりやすく説明していただけませんか。
マキタ:そう、僕の中での“鉄矢”が……“かいめんたい”がですね、「なんだ、おめぇは?」と。
――それ、“かいえんたい(海援隊)”です。
マキタ:それくらい、当時の電子音には、何か、感じさせるものがあったんですよ。
(次回、後半戦へつづく)
(構成/佐保 圭)
日経トレンディ2018/7/27掲載
前回は、クイーンの『Somebody To Love』のなかで、フレディ・マーキュリーがピュアな思いを歌い上げることの中にこそ「希望」がある、とマキタ氏が熱弁した。後半は、スージー氏が名曲『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に喚起される「オヤジ世代の永遠の少年性」の中に「希望」を見いだす。
80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏が、同世代のビジネスパーソンに「歌う処方箋」を紹介するこの対談も、いよいよ最終回を迎える
「お金」をテーマとした対談の前半戦は、スージー氏の「アラフィフは、お金をかけずにもっと発信しよう!」というメッセージのあと、マキタ氏の「人間は単なる“うんこの通り道”」という問題提起によって、一気にヒート・アップ! 対談の後半戦では「お金」と「うんこ」の類似性に触れながら「オヤジ世代の理想の“お金の使い方”」へと議論が深化する。
今回のテーマは、ずばり「お金」。家族の生活費や子どもの教育費、さらには自分の老後の準備など、何かと「お金」が必要になるアラフィフのオヤジ世代は、お金とどんな付き合い方をすればいいのか。折り返し地点を過ぎた残りの人生を豊かにするために、お金との付き合い方のヒントをくれる曲について、マキタ&スージーが伝授してくれた。
前半では、スージー氏が「騒動の理由は沢田研二が筋の通らないことに激怒したから」という持論を展開。それを受けて、後半では、マキタ氏が「ある程度の年齢に達した人間は、ジュリーのように生き方をシンプルにするべきではないか」という“オヤジ世代が学ぶべき人生論”を読者に問いかけた。
今回のテーマは「沢田研二に“オヤジ世代の美学”を学ぶ」。2018年10月17日、70歳記念全国ツアーのさいたまスーパーアリーナ公演を直前になって突如中止したジュリーについて、世間ではさまざまな批判が飛び交い、騒動となり、ジュリーは謝罪会見まで開くことに……。しかし、本当にそれで良かったのか? オヤジ世代の代表として、ジュリーを応援するマキタ&スージーが、軽々しく「沢田研二」を批判する風潮に物申す!
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