■南沙織『想い出通り』
作詞:有馬三恵子
作曲:筒美京平
編曲:萩田光雄
1975年4月21日発売
今回は第44回「早見優さんと80年代アイドル史特集」のボーナス・トラックとして、上智大学出身アイドルに対して、筒美京平が提供した曲をご紹介する。まずは南沙織のこの曲。作詞は有馬三恵子で、南のデビュー曲『17歳』からの黄金コンビ。
作詞と作曲と歌唱が一体化している印象を受ける。「♪『こ』いびとは そ『こ』ぬ『け』の『か』おでー」と、歌い出しの歌詞のカ行にアクセントが強く乗っていて、英語に馴染んでいた影響か、カ行やタ行に特徴のある南沙織の歌い方を十分に計算した作詞・作曲だと思う。
しかし、この曲の真の魅力は歌詞の内容だ。当時(75年=昭和50年)の時点から、ちょっと前=昭和40年代の大学生の青春を振り返る歌詞は私の大好物。ガロ『学生街の喫茶店』、バンバン『いちご白書をもう一度』などと並んで、学生紛争が沈静化して「シラケ世代」の時代に入っていく、当時の大学生の気分がよく描かれている。あぁ、75年の上智大学のキャンパスにタイムスリップしてみたい!
■西田ひかる『ときめいて』
作詞:松本隆
作曲:筒美京平
編曲:渡辺格
1991年8月7日発売
アグネス・チャン、南沙織、早見優に続く上智歌謡アイドル=西田ひかるの、1991年に発表された代表作は、松本隆=筒美京平によるもの。91年当時、すでに意識的な歌謡曲ファンになっていた私は、あの『木綿のハンカチーフ』を生んだソングライター・チームの復活にとても興奮した記憶がある。
確かに良作で、特に高揚感のあるメロディはさすが筒美京平という感じ。結果、それなりにヒットもして、西田ひかるはその年のNHK『紅白歌合戦』でこの曲を歌うのだが、正直『木綿のハンカチーフ』ほどのインパクトは持ち得なかった。また、西田ひかるという人も、そのポテンシャルの割には、アグネス・チャン、南沙織、早見優ほどの人気を得られなかった。
要するに時代が変わってしまったのだ。ブラウン管から一億人を楽しませる歌謡曲の時代が終わり、カラオケボックスの中、数人だけで盛り上がる「がんばろう系Jポップ」の時代へ。そんな流れに対して、松本隆=筒美京平の日本最強タッグが組んでも、抗うことは出来なかったのだ。だからこのメロディの高揚感にも、少しばかり寂寥感が配合されて響いてくる。