ザ・カセットテープ・ミュージック

スージー鈴木のボーナス・トラック

2018年06月01日放送

第17回「山下達郎がレジェンドとなった要因とは?」

■山下達郎『スプリンクラー』

  • 作詞:山下達郎
  • 作曲:山下達郎
  • 編曲:山下達郎
  • 1983年9月28日

私含む、山下達郎ファンの「ソウル(魂の)ソング」と言えるだろう。一般の音楽ファンの中での「知名度」は、かなり低いと思われるが(推定5%)、山下達郎ファンの中での「好意度」は非常に高いのではないか(推定80%)。サザンオールスターズにおける『旅姿六人衆』のような位置にある曲と言えよう。

一応シングルでリリースされた曲である。しかし売上枚数は3.7万枚と不発。83年の9月の発売だから、シングル『高気圧ガール』の半年後で、世間がまだ「夏だ!海だ!タツローだ!」という機運で盛り上がっていた時期に、この暗いシングルは的外れだったろう。

ただ、そういう時期に、あえてこういう地味な曲をシングルにしているところに、山下達郎とそのスタッフの先見の明があったと思うのだ。「夏だ!海だ!タツローだ!」的な季節商品として押し出し続けていれば、あのバンドやあのシンガーのように、もっと短命で終わったはずだ。

逆に、世間の機運に流されず、こういう曲を敢えて出すことによって、現在の良質で頑固な(笑)山下達郎ファンが育成されていったのだと思う。

エンディングの「♪つめたーいざーわめーきを~」の美しいコーラス。35年後の現在、山下達郎のラジオ番組に巣食う方々(私含む)は、このコーラスから生まれ、そして育っていった。




■山下達郎『土曜日の恋人』

  • 作詞:山下達郎
  • 作曲:山下達郎
  • 編曲:山下達郎
  • 1985年11月10日発売

この曲は、何といってもイントロだと思う。めくるめくイントロ。「めくるめく」という言葉が、これほど似つかわしいイントロは、なかなか無い。

86年のアルバム『POCKET MUSIC』の冒頭を飾る曲。このアルバムは、山下達郎が初めて、デジタル機器を本格的に導入したアルバムとして記憶される。この曲のクレジットには、こう書かれている。

「山下達郎:electric guitar, acoustic guitar, hammond organ, synthesizers with PC-8801, glocken, percussion, whistle & background vocals」

「PC-8801」とは何とも懐かしい、NECの当時のパーソナルコンピュータの機種名。この曲は山下達郎自身が、今のPCとはまったく比べ物にならない、果てしなく面倒な操作をしながら作り上げた作品ということになる。

「だから売れれば売れるほどプレッシャー掛かる。かといって迎合できないし。今度のLP(註:『POCKET MUSIC』)なんかも、コンピューターとサンプリング使って、前と同じスタイルやろうなんていうくだらない命題を立てるから、死ぬ思いしたんですよね。でも、不可避だと思った」(渋谷陽一『ロックは語れない』-新潮文庫-)

山下達郎の音楽生活を永らえさせている要因の1つが、状況の「不可避」な変化に対する積極的な対応だと思う。さらに言えば、変化に対する「諦観」のようなものだ。一般に意固地なイメージで語られる人だが、その根本には「大衆音楽なんだから、変化を受け入れなくちゃいけないんだ」という「ポジティブな諦観」がある。

この、いろんな音がぎっしり詰まったイントロに耳をすませてほしい。よく聴けば、若き山下達郎の「ポジティブな諦観」も聴こえてこないか?






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