ザ・カセットテープ・ミュージック

スージー鈴木の「ボーナス・トラック」

カセットのベスト選曲に入りきらなかったけど、スージー鈴木が大好きな2曲をホームページだけで解説中!A面、B面それぞれのこぼれ名曲を紹介します。

第4回「深淵なる井上陽水の名曲特集」

■【A面】井上陽水『新しいラプソディー』

  • 作詞:井上陽水
  • 作曲:井上陽水
  • 編曲:星勝


1986年5月21日発売・シングル
どちらかと言えば「吉田拓郎派」だった私は、井上陽水を、あまり聴き込んではいなかったのだ。しかし、そんな中でも、86年当時、何度も聴いたのが、この曲である。

吉田拓郎なら、絶対に採用しないであろう、とてもシンプルなコード進行の上で、井上陽水のボーカルが、空を飛んでいるような感じで浮遊する。

この曲に惹かれた理由として、この曲が「にせナイアガラ」だったことがある。「にせナイアガラ」とは、要するに「大滝詠一が絡んでいないのに、大滝詠一っぽい曲」。当時、「吉田拓郎派」以上に「大滝詠一派」だった私による造語である。

60年代ポップス風コード進行(C→Am→Dm→G7)や、「ドッ・ッド・ドッ・ターン」というドラムスのパターン、そして何よりも深すぎるエコーが、とてもナイアガラ的で。遠く無関係な人と感じていた井上陽水が「こっちの世界」に近付いてきたと、当時思ったものだった。

そして、この曲の持つ肯定感=「ポジティブ陽水」性が、後年の『少年時代』での大爆発につながっていく。

ちなみに、全くの余談だが、86年は、新田恵利『冬のオペラグラス』が発売された年でもあり、「にせナイアガラ」の当たり年だった。


■【B面】井上陽水『ロンドン急行』

  • 作詞:井上陽水
  • 作曲:井上陽水
  • 編曲:Gene Page


1974年10月1日発売・アルバム『二色の独楽』
この番組(サイト)では、基本的に80年代の音楽を選んでいきたいと思っているが、そんな中、74年という「紀元前」の曲を選ぶことをお許しいただきたい。私にとって、井上陽水と言えば、何といってもこれなので。

アルバム『二色の独楽』は、超・大ヒットアルバム『氷の世界』(73年)の次作。なので予算はふんだんにあり、何とハリウッド録音。演奏メンバーも絢爛豪華で、ジャック・ニッチェ、ジョー・サンプル、レイ・パーカーJrなど、洋楽好きなら必ず驚くだろう面々。

そういう、やたらとリッチな環境で作られたのが、この井上陽水版ロックンロール。ぴしっとしたタイトな演奏がたまらない。しかし、わざわざ西海岸まで行って、歌詞に『抱きしめたい』(ビートルズ)まで出てくる「ロンドン」の歌を歌うという倒錯した発想が、とても井上陽水的だと思う。

「井上陽水的」と言えば、そういうリッチなアルバムにもかかわらず、裏ジャケットで、「短話」として、パチンコの玉が出なかったことに関する愚痴を、ひたすらグチグチと綴っているのもまた「井上陽水的」。

翌年かまやつひろしも、アルバム『あゝ我が良き友よ』で、この曲を歌っているが、本家の方が段違いにいい。

第3回「松田聖子の80年代名曲特集」

■【A面】松田聖子『チェリーブラッサム』

  • 作詞:三浦徳子
  • 作曲:財津和夫
  • 編曲:大村雅朗


1981年1月21日発売・シングル
この、松田聖子4枚目のシングルは、私が最も好きな彼女のシングルである。番組で取り上げた『青い珊瑚礁』も『ガラスの林檎』も、この曲には勝てない。

その魅力は、何といっても「聖子パワーボイス」の完成形であること。デビュー曲から叫び・吠える、高音のキーなのに低い倍音がぶんぶん唸る、松田聖子初期特有のパワーボイスに加え、デビュー時よりも、ピッチ(音程)の安定性が増してきた結果として、ここに「松田聖子のいちばんいい時代の声=聖子パワーボイス」が完成するのである。

もう1つ魅力を挙げるならば、三浦徳子による歌詞だ。つかみどころがない。タイトル「チェリーブラッサム」は歌詞に出てこない。「桜」すらも出てこない。そもそも、なぜ「チェリーブラッサム」と英語なんだという疑問。また「♪約束が叶うのは明日」の「約束」も内容も不明......でも、純粋で清潔な、1981年春の少女のトキメキが、びんびんと伝わってくる!

1981年の春――この曲に加え、3月には、大滝詠一の『A LONG VACATION』が発売、元日から始まった『ビートたけしのオールナイトニッポン』は人気を博し、プロレスではタイガーマスクがデビュー――それは「1980年代文化」の春でもあった。


■【B面】松田聖子『メディテーション』

  • 作詞:松本隆
  • 作曲:上田知華
  • 編曲:大村雅朗


1983年6月1日発売・アルバム『ユートピア』
初期松田聖子のアルバムで最高傑作を選べと言われたら、多少迷いつつも、83年の『ユートピア』を挙げる。

つまり『ユートピア』は、ビートルズで言えば『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』の位置とある。ということは『Sgt. Pepper's~』ラストの傑作曲=『A Day In The Life』に代わるのが、『ユートピア』ラストの、この『メディテーション』ということになろう。

作詞も作曲も編曲も全部いい。「♪宇宙になりたい」と宗教的高みに達する松本隆の歌詞や、のちに今井美樹『PIECE OF MY WISH』(91年)を書き上げる上田知華のキュートなメロディもいいが、でも主役は、大村雅朗による、実にテクニカルな編曲だ(特にイントロから歌い出しに入るところのスリリングさ)。

大村雅朗とは、日本を代表する編曲家。私が思う大村の最高傑作は、渡辺美里『My Revolution』のあのアレンジ。松田聖子のプロジェクトも多く手がけ、ヒット曲『SWEET MEMORIES』では、作曲まで担当している。

最近、何となく「松田聖子の裏方の功績の全ては、松本隆によるものだ」的な論調が目立つが、いやいや。「松田聖子と言えば大村雅朗だ」というのもまた、真実なのだ。

というわけで、『ユートピア』こそが最高傑作。あっ文句は1点だけ――「裏ジャケットの聖子ちゃんの方が可愛い」。


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